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第105回紹介作品

タイトル

『狩人の夜』
1955年、 監督 チャールズ・ロートン 93分

紹介者

栗原好郎

作品の解説

銀行に押し入り、二人を殺して一万ドルを奪ったベンは、娘のパールの人形の中に金を隠し、息子ジョンに金の在りかを口外するな、と言い残して警察に連行される。 やがて彼は死刑になるが、刑務所仲間のハリーはこれを嗅ぎ付け、福音伝道師になりすまして、ベンの妻ウィラに近づく。 そして二人は結婚するが、ある夜ハリーは子供たちに金の在りかを問い詰めているのをウィラに目撃され、彼女を殺してしまう。 子供たちはハリーへの恐怖から、河へボートを出し逃亡を企てるが、二人でいるところを、身寄りのない子供たちを世話しているクーパー夫人に助けられる。 ハリーも子供たちの居場所を突き止めるが、子どもたちを守る彼女に州軍に通報され、連行されていく。 その時のジョンには、連行され死刑になった父とハリーが二重写しになるのであった。 ラストは雪の降るクリスマスの場面。 子供たちやクーパー夫人の明るい雰囲気の中で映画は終わる。

名優チャールズ・ロートン唯一の監督作品で、ある狂信的な男に命を付け狙われる幼い兄妹の恐怖を描くサスペンスである。 右手にLOVE(愛)、左手にHATE(憎悪)の刺青をしたロバート・ミッチャムの薄気味悪い悪役ぶりは出色の出来である。 また彼に殺されるシェリー・ウィンタース演じるウィラが車と共に川底に沈められる場面では、水中に漂う彼女の長い髪は水草と区別がつかない。 洪水に揺れる草のような彼女の髪は実にシュールな動きを見せている。 ロートンはこの映画を制作するにあたって、グリフィス女優のリリアン・ギッシュに出演を懇請している。 彼女の輝くばかりの美しさを見られよ。 また、舞台となるアメリカ中西部の牧歌的な風景や子供たちが偽牧師のミッチャムの毒牙を次々に逃れていく危機一髪の場面などは、明らかにグリフィス的伝統を受け継いでいる。 さらに、照明効果による影の利用などにはドイツ表現主義の影響が見られ、特に寝室の子供たちに初めてミッチャムの姿が露になる時、おののく幼い兄妹にミッチャムの巨大な影が重なり、われわれは不安感を一層募らせることになる。 この作品は冒頭はお伽話のような始まりを見せる。 星空に浮かぶリリアン・ギッシュと子供たち。ギッシュが聖書の物語を語り、子供たちの笑顔がこれに応える。 子供と星空との親和力は、観る者をメルヘンの世界へと誘う。 しかしそれに続く、田園の中で遊ぶ子供たちを空撮でとらえたドキュメンタリー・タッチの場面からは、こうした和やかな童話的世界から一転して殺人の世界への転換が見られる。 フィルム・ノワールに近いところにあるこの作品では、幼い妹が肌身離さず持ち歩く人形の腹の中に大金が隠されているように、お伽話の中に犯罪の世界が挟み込まれている。 夜の河を小舟に乗って子供たちが流される場面での、満天の星空、幼いパールの大人びた歌声、カエルやフクロウ、さらに蜘蛛の巣などのショットは幻想味溢れる怪奇的な雰囲気を漂わせている。

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