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第108回紹介作品

タイトル

『ビルマの竪琴』
1956年、 監督 市川崑 116分

紹介者

栗原好郎

作品の解説

それまで喜劇やメロドラマを連作してきた技巧派の市川崑が、初めて正攻法のシリアス・ドラマを成功させた佳品。 ドイツ文学者竹山道雄の原作を市川夫人でもある和田夏十が脚色したが、カラー撮影を想定して書かれたこの脚本を白黒で撮らされた不本意さから、監督は1985年に本作を自らリメイクしている。 しかし、白黒の映像の喚起力は予想以上のものがあり、ビルマの土は白黒の時ほど赤くは見えなかった。 ただ両作品に同じビルマの物売りの婆さんとして出演した北林谷栄の変わらぬ名演は銘記されていい。 原作は1948年に発表された児童向けの読み物だが、題名にもある通り、音楽が物語に大きな比重を占めている。 イギリス軍に包囲された日本兵たちが、『埴生の宿』を合唱して逃走しようとすると、イギリス兵が『ホーム・スイート・ホーム』を英語で歌い、両軍の合唱となって、水島たちが全滅を免れる場面は何度見ても感動的だ。 彼らが生き延びたのは、彼らの平和への願いがイギリス・インドの兵士たちに通じたからであるが、それ以上にビルマの民衆の暖かさの御蔭なのだ。 国土を日英軍に荒らされたビルマ人の心中は察するに余りあるが、水島上等兵を演じた安井昌二の真摯な眼差しが印象に残る。

昭和20年、ビルマ戦に敗れた日本軍はタイへ撤退を続けていた。 その中に水島上等兵の手製の竪琴に合わせて『埴生の宿』を合唱する部隊があった。 ある時、自分たちがイギリス軍に包囲されているのを知り、『埴生の宿』を合唱すると、向こうのイギリス兵たちも同じ歌を英語で歌いだした。 敵味方が故郷を想い、ジャングルの中で合唱する名場面である。 水島が最後に「仰げば尊し…」と別れの曲を竪琴で弾く時、彼の思いは日本へと向かったはずだが、後ろ髪引かれながらも、野ざらしになった同胞の亡骸を弔うべく一人ビルマの山野へと旅立っていく。

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