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第129回紹介作品

タイトル

旅への誘い

紹介者

栗原好郎

作品の解説

人はなぜ旅に出るのか。 フーテンの寅さんはふらっと柴又に帰ってきては、美女に惚れて失恋する。 そしてまた旅に出る。 この繰り返しが放浪の夢へとわれわれを誘う。 寅さんの、無責任ではあるが気ままな旅に憧れる感情と、 悲しい事を笑いながら語るという隠された崇高なテーマにしばし観客は日常を忘れる。 一方、たった一回の旅がその人の人生に決定的な影響を与える事もある。 親友アルベルトと中古のおんぼろバイクに乗って南米大陸を縦断した若き日のエルネスト・チェ・ゲバラがその人であった。

このアルゼンチン生まれの医学生ゲバラはカストロの理想に共鳴して後年、キューバ革命の戦列に加わることになるが、アルベルトとの旅がそのことに決定的な影響を与えていた。 彼らの貧乏旅行の手記が、映画『モーターサイクル・ダイアリーズ』(2004年)の基底にある。

チェ・ゲバラは旅の過程でさまざまな人と出会う。そして世界にはまだ解決されざる問題が山積していることを若い感受性でつかみとる。 彼の驚きと理想主義が独特のユーモアで語られる。 その清新な輝きは、青春という言葉の持つ脆弱な響きをも凌駕する。 監督はブラジル出身のウォルター・サレス。 『セントラル・ステーション』(1998年)で世界の映画賞を総なめにしたこの監督が、 疾走する若者たちの「自分探し」の旅を共感を込めて描いたロードムービーである。

    

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