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第142回紹介作品

タイトル

「大林宣彦が放った青春グラフィティ」

紹介者

栗原好郎

作品の解説

1960年代は変革の時代であった。 政治や文化がめまぐるしく変わった。 学生運動も盛り上がりを見せ、若者のエネルギーが最高潮に達した。 ビートルズ旋風が吹き荒れ、彼らの発言は世界を席巻した。 そうした中で、四国の田舎の高校生たちが過ごした3年間をノスタルジックに描いたのが、 『青春デンデケデケデケ』(1992年)。 監督は大林宣彦。 ベンチャーズの影響でロックバンドを作った4人の高校生の夢のような青春グラフィティだ。

舞台は香川県観音寺市。 原作者の芦原すなおの育った場所である。 スクリーンでは当地の方言をたっぷり聞かせてくれる。 現実的に見れば、四国の田舎ではロックに明け暮れる若者に対する風当たりはもっと強かったと思うが、そこは美しきノスタルジーとして大目に見よう。

ロック三昧の中にも初恋があったりして、彼らが青春を謳歌する姿は観る者を羨望状態に置く。 映像は最低限のライトは使うが、基本的にノーライティングなので、観音寺の町のドキュメンタリーのような錯覚を覚える。 音楽の選曲も抜群にいいし、久石譲の『青春のモニュメント』が繰り返し流れて、いやが上にも甘美さを増す映画なのである。 人は人生を繰り返すことは出来ない。 ただ一度生きる事が許されているだけなのだ。 だから、こうした青春賛歌もくすぐったいようで、 不思議な快感がある。 大林作品には自分の出身地尾道を撮った佳品もあるが、やはり、この『デンデケ』が白眉だろう。 脆弱な響きも持っている青春をこれだけ謳い上げた作品もそう沢山はあるまい。

    

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