第15回紹介作品
タイトル
『カサブランカ』
1942年、監督 マイケル・カーティス 102分
紹介者
栗原好郎
作品の解説
挿入歌であった「As time goes by」と共に、ボガートやバーグマンの世紀のラヴシーンを 即座に思い浮かべることが出来るメロドラマだが、この作品にはナチを嫌い、 母国を去ってアメリカに渡ってきた俳優たち(いわゆる「ハリウッドの外人部隊」)が多数出演している。 例えば、反ナチ運動の指導者ラズロを演じたポール・ヘンリードはイタリアのトリノの生まれ。 このラズロのモデルはハプスブルク家の血を引くリヒャルト・クーデンホーフ=カレルギー(1894-1972)。 彼は東京生まれで、現在のEUの生みの親であり、汎ヨーロッパ運動の思想的指導者であった。 母はクーデンホーフ光子、日本人である。 さらに、ゲシュタポのシュトラッサー少佐を好演したコンラート・ファイトは、「会議は踊る」(1931年) でオーストリア宰相メッテルニヒに扮した名優であり、夫人がユダヤ人であったことから、 ナチスが政権についた1933年から居をイギリスに移し、40年には渡米した。 また、旅券密売人ウガーテを怪演したピーター・ローレの出自はハンガリー。 ドイツ時代はフリッツ・ラング監督の「M」(1931年)の主役で名を馳せた。 そもそも監督のマイケル・カーティスもオーストリア出身である。 本作品は当時フランスの植民地だったモロッコのカサブランカを舞台に、 反ナチ的な政治色を織り込んだ戦意高揚映画であることは間違いないのだが、 格調高いマックス・スタイナーの音楽をバックに当初の予想をはるかに上回る大ヒット作品となった。
舞台は第二次大戦下の仏領モロッコの首都カサブランカ。 この街はアメリカへ渡る亡命者の待機地点であり、 ボガート演じるアメリカ人リックが経営する酒場にもさまざまな人間が出入りしていた。 ある夜、彼の店に反ナチ運動の指導者ラズロが妻のイルザ(イングリッド・バーグマン)を伴って突然現れる。 イルザを見てリックの表情が変わった。・・・
当時、フランスはドイツに占領されており、モロッコもその例外ではなかった。 その首都カサブランカもフランス中部のヴィシー(ミネラルウォーターの名産地)にある親ドイツ政権下にあった。 ルノー署長も表面的には親独派を装っていたが、ラストでヴィシー産のミネラルウォーターを 屑籠に捨てることで戦列への復帰を果たす。
後年、ウディ・アレンが、「ボギー!俺も男だ」(1972年)で この作品をパロディにしているように、ボギー(ボガートの愛称)のダンディズムは一世を風靡した。 夏でもトレンチコートを着たいというボギーファンも結構いるくらいだ。 ただ、この映画が第二次大戦中に製作された戦意高揚映画であることは事実であり、 そのためにボギーが演じたアメリカ人リックがあまりにも英雄的に描かれている。 しかし、そうした事実を差し引いても、この作品の格調の高さは変わらない。 ボギーの「昨日?そんな昔のことは忘れてしまった。明日?そんな先のことはわからない」や 「君の瞳に乾杯」などのセリフはちょっとキザだが、ハードボイルドの永遠のヒーローにのみ許された言葉なのだ。
モノクロの画面に浮き上がるバーグマンの輝くばかりの美しさは、 彼女を一挙にスターダムにのし上げたことは言うまでもない。