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第169回紹介作品

タイトル

『大いなる幻影』
1937年、 監督 ジャン・ルノワール 114分

紹介者

栗原好郎

作品の解説

久しぶりに観直してみると、この映画は反戦映画と言うより、むしろ、階級の崩壊を描いている。 フランス革命以来、庶民が勢力を増し、ついに第一次世界大戦により、決定的な王朝の終わりを迎える。 ロマノフ王朝然り、ハプスブルク家然り。 その間の滅びゆく貴族の、国を超えた連帯意識をこの映画は描いている。

第一次大戦中、仏独の戦いの中で、ドイツ軍の捕虜になり、ピエール・フレネー演じる仏軍ボアルデュー大尉以下、マレシャル中尉などが収容所生活を余儀なくされるところから映画は始まる。 エリッヒ・フォン・シュトロハイム扮するドイツのラウフェンシュタイン大尉は同じ貴族の出であるボアルデュー大尉に殊の外、敬意を示し、厚遇する。 この戦争が終わるころには、自分たちの時代は終わりを迎える、その終わりを慈しむように。

もちろん、戦争状態において平和は幻影かもしれない。 国境を越える事の意味は深いが、そもそも国境は人間が恣意的に引いたラインに過ぎない。 そうした事を観る者に意識させるセリフや場面が作品には随所に出てくるが、同じ階級の者への国境を越えた連帯の方が強く印象付けられる。 それは滅びゆくモノへの美学すら感じさせる。 ギャバンは先ごろ亡くなった高倉健も尊敬するフランスの名優だが、この作品では、まだ若く瑞々しさすら感じさせる。 後年の『地下室のメロディー』(1963年)でアラン・ドロンと共演した時に見せた老獪さとはかけ離れた一面を見せている。 その彼がマレシャル中尉を演じている。

    

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