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第17回紹介作品

タイトル

『ALWAYS 三丁目の夕日』
2005年、監督 山崎貴 133分

紹介者

栗原好郎

作品の解説

「三丁目の夕日」に漂う懐かしさ

 2005年11月に公開された「ALWAYS 三丁目の夕日」。 東京タワーが出来た昭和33年を舞台に、時代が変わっても「変わりえぬもの」を再現した佳作だが、 その2年後の2007年11月にその続編とも言える「続・三丁目の夕日」も公開された。

 今度は、東京でのオリンピック開催が決定し、日本が高度経済成長時代へと移行していく昭和34年が舞台だ。 懐かしい風景が画面に走馬灯のように現れては消えていく。 当時を知っている人も知らない人も、一様に懐かしさを感じる映画と言えようが、 当時を知るはずのない現代の若者が感じる懐かしさの実質とは一体何だろう。 それは一言で言えば「変わりえぬもの」。 親と子の情愛、人と人との友情、あるいは愛など、レトロな風景の中で展開されるドラマが持つ普遍的なものが、 現代の若者を引きつけて止まないのだろう。

 そして何より特筆すべきは当時を再現する卓越した技術。 高速道路のない日本橋や往時の羽田空港などをVFXで再現することで、 希望という名の重い荷物を軽々と持ち上げて、笑顔すら見せていた当時の輝きを観客に追体験させているのは、 前作同様、見事と言うしかない。

 われわれがスクリーンを観るというより、スクリーンに映し出される 東京タワーや日本橋がわれわれ観客を見据えているといった方が適当な時間が館内に流れる。 映画が観るものであるのは当然だが、一方で、映画の方から観客に向ける眼差しにも注意を向けなければならない。 観客は、観る存在でありつつ、同時に観られる存在でもあることを忘れてはいけないだろう。

 「懐かしさ」の実態はそのような相互的な作用によって生み出される。 共感の構造というものもこうした相互的な交流によって成立するものかもしれない。 もちろん、画面の隅に何気なく置かれた当時を彷彿させる小道具や、すぐれた役者の迫真の演技があっても、 それが相互に化学反応を起こし、観客へと向かう新たなベクトルを生み出さない限り、 さらにそのベクトルが観客の視線と見事な一騎打ちを演じない限り、 共感という名の至福の瞬間は訪れて来ないことは言うまでもない。 この映画と観客が生み出す至福の瞬間を招来させるものこそが映画館の魔力なのだ。

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