第170回紹介作品
タイトル
『愛情物語』
1956年、 監督 ジョージ・シドニー 123分
紹介者
栗原好郎
作品の解説
世に音楽映画は多いが、この作品は、本物かと思わせる絶妙のピアノ・タッチを存分に楽しめる。 その「本物」を演じるタイロン・パワーは、この映画の公開2年後に若くして亡くなっている。 田舎から出てきた青年のサクセス・ストーリーを前半に、後半は最愛の妻を亡くし、自身も不治の病に侵されて舞台から退場して行く主人公をタイロン・パワーは巧みに、そして時には優美に演じている。 相手役のキム・ノヴァクも金髪のこぼれるような美貌を見せている。 最近は、タキシードが似合うスターも少なくなったが、タイロンはびっしり決めて、ピアノを弾いている。
後半はセンチメンタルな部分もあるが、やはりラストシーンの父と子のピアノ連弾が白眉であろう。 息子は迫り来る父親の死を悟り、その悲しみを胸に懸命にピアノに向かう。 そうした子供の健気さを包み込むように、最後の別れをピアノの演奏で伝える父親。 子供は悲しみのあまり演奏できなくなる。 ややあって、子供を勇気づけるように父の手が動き出す。 そして連弾のピアノが鳴り響く中で、父親の手が止まり、次の瞬間、その手はさっと手前に消えてしまい、息子だけの演奏になり幕となる。 この手をさっと引くことで、父親の死を暗示するわけだが、父親の退場はかくあるべし、と唸る名画面だ。 あっけなく、もったいぶらずに父の死を描くことで、いつまでもその余韻が残る。 『ライフ・イズ・ビューティフル』のラスト然り。