図書館トップ > CineTech home > 第171回紹介作品

第171回紹介作品

タイトル

『マルチニックの少年』が問いかけるもの
1983年、 監督 ユーザン・パルシー 106分

紹介者

栗原好郎

作品の解説

フランスには第2次世界大戦後も、海外県や海外領土と呼ばれる旧植民地が存在している。 旧植民地に独立を許さず、フランス本国に同化させることで、宗主国と植民地の関係を隠蔽しながら継続するという狡猾な手法は許しがたいものがある。 イギリス連邦も然りで、民主主義の国家とは思えない差別的な従属関係である。 そうした仏英の植民地に対する非人道的な姿勢は今もって本質的には変わっていない。 現在、この映画の舞台となるマルチニック島はフランスの海外県である

         

このユーザン・パルシ監督の『マルチニックの少年』は、まだフランスの植民地であった1930年代のマルチニックで展開する。 映画の始まりに「世界の全ての黒人街に捧げる」と出てくるように、いまだ独立を勝ち取れない白人社会へのやわらかな抵抗の意識に貫かれている。 しかし、植民地支配や差別に対する純然たる抵抗のドラマとしてより、ジョゼ少年の成長のドラマとして明るさが前面に出ている点は、未来に希望を抱かせるものを持っている。

    

原作は、やはりマルチニック出身の作家ジョゼフ・ゾベルの「黒人街通り」。 彼の少年時代を描いた佳品。 それを同郷のパルシ監督が『マルチニックの少年』として撮ったわけだが、当時はやっていたマラヴォワの音楽と共に、「フランス映画」という先入観を見事に、 そして実に心地よく裏切ってくれた。 ジョゼ少年は祖母と暮している。 サトウキビ畑でのわずかばかりの労賃で孫との生活をしなければいけない祖母は、 決して挫けないし、孫への夢は持ち続けている。 そうした姿勢はジョゼにも伝わっていて、奨学金を得て町の学校へ通う事になる。 やがて祖母が亡くなって…。 その間に白人と黒人の間の混血児の問題や、植民地が抱える特有の問題等をちりばめながらも、それを社会告発的なドラマにせず、さらっと描いた所は監督の力量を感じさせる。 本当に言いたいことは隠した方がよく表現されるものだ。

    

ページの先頭へ戻る