第172回紹介作品
タイトル
『赤ひげ』と『幸福の黄色いハンカチ』
紹介者
栗原好郎
作品の解説
『赤ひげ』はもちろん三船敏郎主演、『幸福の黄色いハンカチ』は高倉健主演の映画である。 ただ、実際は、共に若者の成長のドラマである。 その証拠に前者では、加山雄三演じる保本が養生所の門をくぐる所から始まり、最後も赤ひげに続いて養生所へ入っていく保本の後ろ姿で終わっている。 また、後者でも武田鉄矢演じる欽也や桃井かおり演じる朱美のエピソードから始まり、最後は車の中の欽也と朱美のラヴシーンで終わる。 共に、冒頭のシーンの未熟な有様が「主演」との出会いによって成長の跡を見せるのだが、それに対して三船や高倉は脇にいて、彼らを補佐する立ち位置をとっている。 もちろん、劇中、「主役」としての見せ場は用意されているが、彼らの腕っ節の強さをアピールする場面は、あくまでも期待する観客へのサーヴィスに過ぎない。
『幸福の黄色いハンカチ』の場合、ラストのはためく黄色いハンカチを最初に見つけるのは武田だし、それに応じて桃井もハンカチを見る。 そしてその視線の先にハンカチがあることを観客も確認する。 しかし、まだその時点でも「主演」の高倉の視覚にはハンカチは入ってこない。 高倉が真に主役ならば、若い二人が促した後、三人で共に見たハンカチを観客も見るべきではないのか。 高倉がハンカチを見る前に観客が見ていたのでは主役としての位置がずれてしまう。 しかし、先に書いたようにこの映画を若者の成長のドラマとしてとらえれば、この山田洋次の演出もうなずける。
『赤ひげ』についても、いやいやながら養生所に入ってきた加山が、赤ひげの医者としての、さらに人間としての魅力に感化されて、自ら進んで養生所の仕事に就こうとするまでの顛末を、 「主役」の三船ではなく加山の関わりを中心に構成されている。