図書館トップ > CineTech home > 第174回紹介作品

第174回紹介作品

タイトル

『八日目』が目指したもの その1
1996年、 監督 ジャコ・ヴァン・ドルマル 118分

紹介者

栗原好郎

作品の解説

この作品は、1991年の『トト・ザ・ヒーロー』に続くジャコ・ヴァン・ドルマル監督の長編第二作にあたる。 物語はセールスアドバイザーのアリーという男と、最愛の母に死なれ、施設で寂しく暮らすダウン症の青年ジョルジュとの出会いを中心に展開する。 『八日目』というタイトルからして「創世記」のもじりであり、神的世界との関わりが前提されている。 初めは無であり、音楽だけがあったという言葉で始まり、六日目のヒトの創造へと続く。 七日目は休息。 そして八日目は、というのがこのタイトルの意味する所だろう。

監督は、前作『トト・ザ・ヒーロー』にも出演したパスカル・デュケンヌを本作品にも登場させているが、彼自身、ダウン症の青年であり、映画の中では別の人格のダウン症の青年を演じたことになる。 作品の冒頭で天道虫が空高く昇って行く。 このシーンは観る者に、不思議な、この世ならざる物語の展開を予感させる。 草の上に寝転んだジョルジュの目にも、大空めがけて飛び上がる天道虫の姿が映っている。 天道虫は欧米では最も愛されている虫である。 フランス語でも、「マリアのお馬」とか「神様の虫」などと称され、親しまれているわけで、その事情は英語でもドイツ語でも同じである。 この虫がこのように天上のイメージと結びつくのは、指にとまらせると指先から飛び立ち、必ず空へ昇って行くかららしいが、その色彩と形が愛らしい事も幸いしている。 フランスでは天道虫を捕まえた時、それを飛ばせるか、木の皮に捕まらせてやると、虫は空に昇って天国に席を予約してくれるという言い伝えも残っている。 こうした事を考え合わせると、映画の中に何度も出てくるこの昆虫は、作品全体に超自然的なイメージを喚起させる事に大いに役立っている。 ラストでも、死んでしまったジョルジュが行く天国へと天道虫は飛び立っていく。 天国に彼の席を予約するかのように。

    

ページの先頭へ戻る