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第183回紹介作品

タイトル

『スパイ・ゾルゲ』
2003年、 監督 篠田正浩 182分

紹介者

栗原好郎

作品の解説

映画監督の篠田正浩の最後の作品『スパイ・ゾルゲ』。 監督が長年暖めてきたゾルゲ事件の映画化だが、 ゾルゲと彼に深く関わった尾崎秀実を通して昭和という時代を描こうという野心作である。

第二次大戦下、ソ連のスパイ、ゾルゲとその日本側の協力者である尾崎らの対日諜報活動に対する一斉検挙事件という当初のゾルゲ事件に対する解釈も、 長年の研究により変化してきた。 米ソの戦後の対立の中、反共政策をとるアメリカとしても、ソ連のスパイであるゾルゲを中心とするグループが反戦諜報活動を通して戦争回避を目論んでいたなどということは知られたくないことだった。 ゾルゲと尾崎には死刑判決が下され、1944年に処刑。 戦前、尾崎は売国奴として、そして戦後は時を経て英雄としてまさに正反対の評価を受けることになる。

1984年に『瀬戸内少年野球団』で初めて8月15日をテーマに映画を撮り、1990年には『少年時代』、1997年には『瀬戸内ムーンライト・セレナーデ』と続くプロセスの到達点としての今回の作品。 篠田監督は、昭和という自分が生きた時代を一番客観的に見ていたのはスパイだったのでは、と思い至り、それが製作費二十億円の歴史大作へとつながった。

ゾルゲ・グループの検挙は治安維持法などへの違反によるものだったが、彼らの反戦平和活動を思う時、現在の日本の政治状況が二重写しになり、危惧の念が脳裏をよぎった。 「今こそゾルゲ」かもしれない。

  

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