第31回紹介作品
タイトル
『ガスパール/君と過ごした季節(海辺のレストラン)』
1990年、監督:トニー・ガトリフ 93分
紹介者
栗原好郎
作品の解説
「海辺のレストラン」メモ
南仏プロヴァンスの人気のない海岸。ある日、ロバンソンはひとりのおばあちゃんと出会う。 服には「名はジャンヌ。無一文です。よろしく」とのメモ。 その境遇に同情したロバンソンは彼女を家へ連れて帰ることにしたのだが、ロバンソンには親友のガスパールという同居人がいた。 不意の闖入者にうんざりしながらも奇妙な共同生活を始めるガスパール。 二人の夢は海辺にレストランを開くこと。無邪気なおばあちゃんも自分なりに協力しようとして、 微笑ましいがさまざまな珍騒動が巻き起こる。ところが、そんなある日・・・。
原題は「ガスパールとロバンソン」(Gaspard et Robinson)。 舞台となっている南仏の紺碧の海を背景に、ミシェル・ルグランの哀感を漂わせる音楽が見事にマッチして 映像のファンタジーが繰り広げられる。 監督は、「MONDO」(1995年,フランス)で映画界の注目を浴びたトニー・ガトリフ。 ジプシーの持つ流浪の民としての哀歓を随所に感じさせながら、さすらい人たちのユートピアを描く。 最近は家族の崩壊ということで、家族をキーワードにしてさまざまなドラマも作られている。 家族の危機ということか。この作品では、血のつながりはないが癒しがたい傷を持った者たちが、 共に集まり家族のような生活を営む。妻に去られたガスパール、幼い頃、母親に捨てられたロバンソン、 家族に捨てられたジャンヌおばあちゃん、さらに家をなくしたローズとエヴァの母娘。 この五人が擬似家族を形成することで、お互いの過去の想いを癒そうとする。 憧れだった海辺のレストランを集まった皆でやろうとした矢先、ジプシーへの想いに駆られ、 自由気ままな生活に憧れるガスパールはひとり去っていく。彼の過去の傷は言いようもなく深かった。 全員で夢を分かち合うことで、未来に希望をつなぐことはできなかったが、 ガスパールの去り際の潔さは見る者の心を打つ。 「ほんといい奴だなあ」と思わず言ってしまいたくなるほどすばらしいラストシーンでのガスパールの後ろ姿。 いつの日か彼がロバンソンたちのレストランに戻ってくることを期待しながら観客は、 画面の奥に歩み去っていくガスパールを名残惜しげに見やる。南仏の海岸の風景は三色に分かれる。 青、白、それに淡い赤茶色のコントラストが実に鮮やかだ。 世界的な保養地コート・ダジュール(原語のフランス語ではCote d’Azur, つまり紺碧海岸という意味)の海の、 藍色に限りなく近い青、この青も浜辺に近くなると白濁する。 丘に上がると地中海沿岸に特徴的な赤茶色の屋根が並ぶ。但し砂ぼこりのため、色はいくらか淡い。 この絶妙な色のコントラストの効果は、この映画にも物語を補完するものとして巧みに織り込まれている。 ユーザン・パルシー監督の「マルチニックの少年」(1983年)でも撮影を担当していたドミニク・シャピュイの カメラ・ワークが実に的確に対象を捕えている。 ラストの去りゆくガスパールとそれについていく犬のしぐさは必見。 去りゆくものだけが持つダンディズム。「シェーン」然り。