第36回紹介作品
タイトル
「傷だらけの栄光」と「ロッキー」
1956年、監督 ロバート・ワイズ 113分
1976年、監督 ジョン・G・アヴィルドセン 119分
紹介者
栗原好郎
作品の解説
「傷だらけの栄光」と「ロッキー」
近代のボクシングはイギリスで始まったものだが、リングでボクサーを殴り殺しても殺人罪は適応されない。 そうした緊迫感がボクシングの人気の秘密の一つであることは間違いない。 テレヴィの過去の視聴率ベストテンを見ると、ボクシングのタイトルマッチがずらりと並んでいる。 殴り合いは残酷だという見方もあるかもしれないが、武器を持たずに生身の体で殴りあう姿に、 思わず身を乗り出して応援している自分を見出すことがある。それは映画においても変わらない。 作り物であるはずの映画のファイト・シーンに、手に汗握るのはなぜだろうか。 殴られては殴り返す、その途方もない格闘の連鎖が、人生の荒波にさらされているわれわれの共感を呼ぶ。
ポール・ニューマンの事実上の出世作「傷だらけの栄光」(1956年)と シルヴェスター・スタローンが自ら脚本を書き、主演した「ロッキー」(1976年)の主人公の名前が、 共にロッキーであるのは偶然とは思えないが、両作品がボクシング映画の傑作であるのは言うまでもない。 どちらの作品も不良少年がボクサーとして人生を切り開いていく物語だが、「傷だらけの栄光」の主人公が ロッコ・バルベラ(リング名がロッキー・グラジアーノ)、「ロッキー」の主人公がロッキー・バルボアであるのを 見れば、スタローンがロバート・ワイズの「傷だらけの栄光」を意識して、脚本を書いた事はまず間違いなかろう。 どちらの主人公もイタリア系の移民であり、スタローン自身イタリア系であることを考えれば、 世界ミドル級チャンピオンにまでなったロッキー・グラジアーノに、羨望に近い賛辞を贈っていたのは当然かもしれない。