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第37回紹介作品

タイトル

「リトル・ダンサー」
2000年、監督 スティーヴン・ダルドリー 111分

紹介者

栗原好郎

作品の解説

「リトル・ダンサー」における階級上昇

 ジェイミー・ベルという名子役を得て、スティーブン・ダルドリー監督が2000年に撮った 「リトル・ダンサー」は、ダラムという炭鉱町で展開されるドラマである。バレエがもたらす飛翔感は、 主人公ビリーの階級上昇のテーマと重なり、見事な増幅作用を見せている。 さらに、全編に流れる「白鳥の湖」が、変身のテーマ、つまり階級上昇のテーマを暗示している。 日本では、その人が使う言葉だけで「生まれ」を探る事は困難な部分があるが、 イギリスでは、労働者階級の言葉は、明らかに階級の上のクラスの言葉とは一線を画す。 この作品でも、ダラムの労働者の言葉は、階級の存在を観客に突きつける。 その階級から離脱して上昇するビリーが、バレエという飛翔を伴う芸術を目指すというのは、偶然ではない。 少年のダンスに賭ける情熱を描きながら、少年と父親の関係の修復と共に、 監督は上昇(飛翔)のテーマを追う事で、退屈な日常を一時的に脱する夢を観客に与えている。 他のものではなく、飛翔感覚を伴うバレエを題材に選んだことが、観客の非日常への離脱願望を満足させる。 ダラムという田舎町からロンドンへの道、つまり斜陽の炭鉱町からロイヤル・バレエのある大都会への脱出のテーマが、 観客自らの日常からの脱出という願望と二重写しになって、快い開放感を与えている。

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