第38回紹介作品
タイトル
「コーラス」
2004年、監督 クリストフ・バラティエ 97分
紹介者
栗原好郎
作品の解説
この映画は見終わった後、感動するが、決して「泣かせ」の映画ではない。 ハリウッド的な「感動」は回避されている。「コーラス」という2004年のフランス映画のラスト。 寄宿学校を辞めた音楽教師クレマン・マチュー(ジェラール・ジュニョ)がひとり寂しく学園を去っていく。 彼は、いろいろな問題を抱えた子供たちに音楽の素晴らしさを教えようと、 コーラスを通して少年達は明るさを取り戻していくが、校長と対立し、心を残しながら子供たちのもとを去ることになる。 その師弟の別れをあっさりと抑えたトーンで描いた。 アメリカ映画なら学校側の制止にもかかわらず、去り行くマチュー先生を追いかけ、 その別れを惜しむ涙のシーンを作るだろう。 実際には子供たちの作った紙飛行機を去り行く道に見つけたマチューは、 ふと見上げた学校から手を振る子供たちに気付く。しかし手しか画面には映し出されない。 それに紙飛行機には、「さよなら」の文句が綴り間違いも含めて簡単に記されているが、 先生は全部を拾う事はしない。いくつかを何気なく拾ってそのまま立ち去ってしまう。 その後、この音楽家くずれの先生がどうなったか、画面では明かされない。 子供たちの悲しみ、先生の失意の情、共に映画の中では深くは表現されない。 その抑えた表現の中に人生が持つ厳しさ、真実を観客は垣間見る。 「感動」を強制するのではなく、映画が残した余韻の中に観客は感動を探すことになる。