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第39回紹介作品

タイトル

「アラバマ物語」
1962年、監督 ロバート・マリガン 129分

紹介者

栗原好郎

作品の解説

映画は背伸びして観なきゃ

 「アラバマ物語」(1962年)は人種的偏見が根強く残るアメリカ南部が舞台である。 白人女性を暴行したという容疑をかけられた黒人青年を弁護したアティカス・フィンチ(グレゴリー・ペック)の 思い出を成長した彼の娘スカウトが語るという回想形式の作品である。 映画の後半の裁判のシーンで、父親が人種的偏見に満ちた南部の人たちを前に黒人青年を弁護する様を、 彼の子供たち(ジェムとスカウト)はしっかりと二階の黒人席で見つめている。 まだよく分からない大人の世界を垣間見る二人の視線は、父親への信頼に満ちている。 そしてこれから入っていくだろう大人の世界を見極めようと必死である。

 こうした子供の視線から見た大人というコンセプトは、この時代の映画には極めて多い。 少し時間を遡るが、西部劇の傑作「シェーン」(1953年)もスターレット家の一人息子ジョーイの視線の先にドラマが展開する。 最後のジャック・パランス演じるシャイアンの殺し屋ウィルソンとシェーンの果し合いの場に、 ジョーイはちゃんと現れる。そして、まんじりともせず、生死をかけた大人の世界を見ている。 子供が自分を見ている、それも信頼と憧れに満ちた眼差しで見つめていると思うと、 大人はその期待に恥じないような行いをしようと自然に思うはずだ。

 昔の映画が、子供が背伸びして観るものだったとしたら、現在の映画は、 大人が子供の世界に下りてきて迎合するようなものが多い。 お子様ランチ的な映画が最近は多すぎる。 「子供にも分かる」という映画は案外曲者ではないだろうか。映画はやはり背伸びして観なきゃ

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