第40回紹介作品
タイトル
「南極料理人」
2009年、監督 沖田修一 125分
紹介者
栗原好郎
作品の解説
「南極料理人」を見る―「生きててよかった」
西村淳の原作本を読んでいたので、笑いのツボを押さえた映像になることは 見る前から予想はしていた。 食べるという生きる事の基本的欲求を、南極という極限状況で笑いと共に堪能出来る作品だ。 平均気温マイナス54度という、死と隣り合わせの過酷な環境の中で、狂気すれすれで成立する笑い。 ペンギンもアザラシも、果てはウィルスさえも存在しない白い大陸で、 食べる事への欲望に駆り立てられた隊員たちの哀しさ、おかしさ。 極地で全ての虚飾を剥ぎ取られた人間には、食べる事への情熱は生きている証なのだ。
主演の料理人西村を演じる堺雅人の半笑いの絶妙の演技。 脇を固める他の隊員たちのとぼけたおかしさも、閉鎖空間に和やかな雰囲気を醸し出す。 この作品には、「悟りといふ事は如何なる場合にも平気で生きて居る事であつた」という 正岡子規の言葉につながる何かがある。
巧みな間の取り方が笑いを生むが、とってつけたようなヒューマニズム的結末には ならず、帰国後隊員たちも結構リアリズムの日常へとすんなり戻ってしまうところに説得力がある。 「生きててよかった」と心の底から思わせる映画だ。