第48回紹介作品
タイトル
『となりのトトロ』
1988年、監督:宮崎 駿、アニメーション 86分
『木を植えた男』
1987年、監督:フレデリック・バック、アニメーション 30分
紹介者
栗原好郎
作品の解説
〜『となりのトトロ』と『木を植えた男』〜
トトロは架空の生物であるが、ネコバスと同じように子供にしか見えないという設定になっている。むしろ森の精といった方がいい。 トトロの好物はドングリであるが、フランスの作家ジャン・ジヨノが書いた『木を植えた男』もドングリを植える話であり、いわゆる照葉樹林文化という広大なテーマへとつながる何ものかをこの作品は含んでいる。 ドングリはキリスト教圏の国々では聖なる木であり、それは『となりのトトロ』の冒頭で引越し先の新しい家の前でサツキたちが目にする巨大なクスの木が日本の神木であるのと呼応する。 『となりのトトロ』が日本の昭和30年代初めの田舎を舞台にしながら、実はドングリという西洋キリスト教圏の文化的要素(日本で言えば神木にあたる)と日本の神木であるクスとの邂逅を象徴しているのは快挙と言うべきか。 その証拠にドングリが好物のトトロは大人には見えず、子供にしか見えないという設定になっている。日本的に言えば子供は天からの授かりものであり、まさに神からの使者であり、その意味でもトトロが持つ神性とつながるものがある。 トトロはドングリが好物だから大人には見えない。つまり神がかりのどんぐりの実を好物としているから、トトロは大人には不可視の存在として、子供には見える存在として、造形されている。
スタジオジブリでの宮崎の盟友である高畑勲が『木を植えた男』の翻訳者の一人であることも、『となりのトトロ』制作の一契機になっているだろうことは想像するに難いことではない。
『木を植えた男』にはフレデリック・バックのアニメーションがあり、アカデミー賞(短編アニメーション部門)を受賞している。ジャン・ジヨノの原作に感銘を受け、 2万枚にも及ぶ作画作業を一人でこなしたフレデリック・バックの類まれなる営為は、物語の中でブフィエ老人がドングリを始め、さまざまな木々を植え続けたことと呼応してさらなる感銘を呼び起こす。