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第51回紹介作品

タイトル

『一人息子』
1936年、監督:小津安二郎、83分

紹介者

栗原好郎

作品の解説

昭和初期の不況の時代、「大学は出たけれど」という言葉がはやった。 一旗挙げようと東京に乗り込んで行くが、大学を卒業しても満足な就職口もなく、かと言って、おめおめ田舎に帰ることも出来ないデラシネたちが東京にはたくさんいた。 信州の田舎から少年が進学の志を立てて上京してくる。母は一人息子を苦労して進学させるが、少年は志と異なり、夜学の教師にしかなれない。 苦労をかけた母親にその事を知らせる事も出来ない。結婚して子供まで出来ているところに、ひょっこり母親が尋ねてくる。 久しぶりに息子に会った母親は失望するが・・・。山崎貴監督の『ALWAYS三丁目の夕日』(2005年)の冒頭は、東北からの集団就職の列車が上野駅に入るところから始まる。 昭和30年代の東京は地方の中卒の安価な労働力を求める中小企業が多かった。先の昭和初期の『一人息子』も、この昭和33年の東京タワーの出来た年を舞台にした『三丁目の夕日』も、学歴こそ違え、共に東京を目指して多くの若者が地方からやってきた時代を扱っている。 希望と不安を抱きながら、都会に群がる地方の若者たちの姿が妙にまぶしい。『一人息子』の母親はどう自分を納得させて田舎に戻ったのか。小津の映画は「人生と折り合いをつける」というのが底流に流れている重要なテーマなのだが、それは諦観にも似た感情を呼び起こす。

     

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