第52回紹介作品
タイトル
『戸田家の兄妹』
1941年、監督:小津安二郎、106分
紹介者
栗原好郎
作品の解説
富豪だと思われていた戸田家で、父親が亡くなる。残されたものを整理してみると、借金が意外に多く家屋敷を処分しなければならなくなる。 母親は末娘と共に子供達(長男、長女、次女)の家をたらいまわしにされるが、結局、二人だけで貧しく暮す事になる。 そこに満州から次男が帰ってくる。そして母と妹の面倒を見ない兄たちを面罵する。母親と妹は次男に連れられて満州へ・・・。
実はこの作品が作られた二年前の1939年には、『お茶漬の味』のシナリオが検閲で却下されている。 出征する夫を送り出す前夜にお茶漬とは何事か、という理由だったかどうかは分からないが。 とにかく軍国主義のご時世には合わなかった訳で、この『戸田家の兄妹』もその意味では戦意高揚とは行かないだろう。 ただ、最後に満州帰りの次男が、日本帝国主義の象徴である協和会服を着て、兄たちを一喝するところが検閲官の気に入ったのか。 『お茶漬の味』は戦後の1952年に改作して映画化されている。満州帰りというテーマは、『宗方姉妹』(1950年)の山村聡演じる三村亮助にも投影されていることは言うまでもない。 小津は自分の映画に軍人を登場させなかったことで、戦争を描かなかったという結論を簡単に導き出す論者もいるが、軍人や戦闘場面を直接描かずとも、十分に戦争の影を映し出すことは可能なはずだが。