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第54回紹介作品

タイトル

『秋刀魚の味』
1962年、監督:小津安二郎 113分

紹介者

栗原好郎

作品の解説

小津の遺作である。この作品が完成した次の年に小津は満60歳でこの世を去る。『晩春』(1949年)と同じ構造を持つこの作品は、例によって娘を嫁にやる話である。 共に、父親役の笠智衆が、嫁に行って娘がいなくなった我が家で孤独をかみしめる、という結末だが、小津の様式が極度に完成された作品でもある。 人物が正対して話す場面では想定線を跨いでキャメラが置かれるし、人物は直接フレームを横切らないなど、多くの小津らしい特徴をあげつらうには最適な作品となっている。 冠婚葬祭、特に婚葬、つまり結婚や葬儀の場面が戦後の小津作品にはよく出てくるが、共に近親者が集う場である。 そうした場だけが、核家族化がすすむ時代において、唯一、お互いが家族である事を確認できる場であった。 ハリウッド映画に代表される「ローラーコースター・ムーヴィー」に慣らされ、外部からの強い刺激にしか反応しなくなった現代人は、 小津の静的な世界にうごめく心理的な揺れに共感できるだろうか。『晩春』も『秋刀魚の味』も最後は、娘を嫁にやることになるが、 娘と父親との最後のやりとりを細かく観れば、その微妙なズレに気付くに違いない

     

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