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第56回紹介作品

タイトル

『砂の器』
1974年、監督:野村芳太郎、143分

紹介者

栗原好郎

作品の解説

ミステリーの方法〜松本清張の『砂の器』の演出について

松本清張の小説作品の映画化は多いが、どれも作者の満足のいくものとは言えない。ただ、『砂の器』だけは清張をして、 原作を超えたと言わしめた。1974年制作の松竹作品である野村芳太郎監督の『砂の器』は、ラスト40分あまりが、 和賀英良の『宿命』の演奏会、捜査会議、回想場面での父子の巡礼の旅が、三つ巴のカットバックで繰り返し映し出され、 観客の涙腺をいたく刺激してきた。次々に新しい事実が明るみに出され、捜査会議に出席した刑事たちと共に、観客も驚き、 かつ共感しながら怒涛のごとく大団円を迎える。これまで断片的な事実であったものが、ラストに至って一気に結びつき、有機的な連関を生む。 まさにミステリーの愉悦の極致を味わう事が出来る。同時に3つの流れを描きうる映画というメディアに対して、作者の清張は賛辞を惜しまなかった。 この『砂の器』はテレビドラマ化も何度か行われているが、概して説明的で、ミステリーの謎解きの愉しさを味わうには不十分である。 ミステリーの場合、謎を残しつつ、謎が謎を呼び、最後に化学反応を起こすように解決に向かうのが常道だと思うのだが。

     

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