第60回紹介作品
タイトル
SF映画のターニング・ポイント
紹介者
栗原好郎
作品の解説
1902年のジョルジュ・メリエス「月世界旅行」を皮切りに、SF映画の歴史は始まる。 しかし、SF映画の位置は低く、 一流の映画監督の撮るものではないという評価が1960年代まで続く。 そして、1966年、リチャード・フライシャーによりSF 映画の評価を一新する「ミクロの決死圏」が撮られる。 手塚治虫の原作という説も強いこの作品は、潜水艇に乗った医師団をミクロ化し、 患者の頸動脈から進入させ、脳を治療させるというもので、人間の内的宇宙の画期的な描写が話題になった。 映画の種本になっていると言われるのは、「鉄腕アトム」のテレビアニメ第1作の「細菌部隊」(第88話)。 その2年後には、 スタンリー・キューブリックが「2001年宇宙の旅」を撮る。 この作品はスタジオセットで撮られたとは思えないほど、精密な宇宙描写に満ちている。 いわゆる人間の外的宇宙をドキュメンタリー・タッチで描いたもので、当時の科学の粋を結集して制作された SF映画の金字塔的作品だ。 この二作品が制作されたおかげで、「スター・ウォーズ」(1977年)などの現代のSF映画の隆盛もあると言って過言ではない。
内的宇宙と外的宇宙の間に人間は存在し、営みを続けている。 そのことの意味を、「ミクロの決死圏」と「2001年宇宙の旅」の二作品は今も問いかけている。 実は、月面に人類が初めて降り立ったのは1969年で、これらの両作品が制作された直後だったことを思うと、人間の持つ類まれな想像力に今さらながら驚嘆する。 「2001年」の場合は、宇宙の神秘、哲学というものを感じさせ、人間を越える神的な存在を仮定したくなる。 モノリスは人類の進化を呼び起こすものであると同時に、 人間を越えた超越的な支配者という側面も持っている。 絶対者を背後に宇宙の摂理を感じさせる映像表現は、ペシミスティックなまでに運命論的な世界だ。 タイムマシンなどいくつかのものは今のところ実現していないが、ほとんどのSF的装置は現実化されてきた歴史がある。 その意味ではSFが科学に影響を与え、 SF映画が巧みな映像表現で科学的進歩に寄与してきたことは、もっと語られていい。 そのSF映画のターニング・ポイントであり、今もって頂点に立っているのはこの二作品なのである。