図書館トップ > CineTech home > 第61回紹介作品

第61回紹介作品

タイトル

『ローマの休日』
1953年、監督 ウィリアム・ワイラー 118分

紹介者

栗原好郎

作品の解説

ウィリアム・ワイラー監督の「ローマの休日」が日本に公開されて五十年以上になる。 全編ローマ・ロケで撮られ、オードリー・ヘップバーンの初めての主演映画であり、彼女の最高傑作である。 ローマに立ち寄った王女アンがふらりと街に出てゆきずりの新聞記者ジョーとたった一日だけの恋をする。 しかし、しょせんは叶わぬ恋。 身分を隠して束の間の自由を手に入れた王女が、再び自分の世界へ戻っていくまでを、 絶妙なテンポで描いてみせるワイラーの演出が冴える。 世間知らずの王女のお姫さま口調や王女と知っていて知らぬふりをするジョーたちのコミカルなやりとりが楽しい。

ヘップバーンのこの映画での鮮烈なデビューの直前の1954年2月、アメリカ大リーグの花形選手ジョー・ディマジオと来日した女優がいる。 マリリン・モンローである。 飛行場は空前のファンで埋まった。 映画史の中で対照的な位置を占めることになるこの二人の登場は期せずして同時代であった。 モンローはセックス・シンボルとして登場し、セックスという「裏の文化」を陽光の下にもたらす役割を果たした。 一方、ヘップバーンは、ノン・セックスの雰囲気を持った女優である。 さらにヘップバーンはベスト・ドレッサーでもあったから、 ジバンシーなどを通して彼女のファッション界に与える影響は極めて大きかった。 彼女はモンローとは対照的に純愛への憧れをかき立て、 以来、純愛の象徴として半世紀以上も生き続け、今だに彼女の持つ意味は衰えていないのである。

この映画はメルヘンのような軽いラブ・コメディの体裁をとりながら、ひとりの女性の人間的な成長をも描いている。 宿舎に戻ったアンが人間として脱皮した姿を見落としてはいけないだろう。 この映画の脚本を担当したのはダルトン・トランボだが、最近までクレジットの中に彼の名前は見出せなかった。 代わりに、イアン・マクレラン・ハンターとあった。 トランボは政治的な理由で本名を明かすことができなかったので偽名で書いていたのである。 実は、トランボはアメリカの「非米活動委員会」からブラックリストに載せられ、事実、1950年には半年の間、牢獄に入ったことがある。 歴史に名高い「赤狩り」である。 偽名で書いたトランボだったが、それは、ヘップバーン演じるアン王女がやはり偽名のアーニャという名でローマの街に繰り出すところに呼応している。

韓国ドラマ「冬のソナタ」や日本映画「世界の中心で、愛をさけぶ」も共に純愛物であり、現代の日本人には失われたものへのノスタルジーを感じさせることがその人気の秘訣となっている。 でもそのノスタルジーの先には「ローマの休日」がありそうな気がする。 純愛ブームのルーツとしての「ローマの休日」を考えることで、オードリーは現代に甦る。

     

ページの先頭へ戻る