第66回紹介作品
タイトル
『二十日鼠と人間』〜夢とその崩壊のドラマ〜
1992年、監督 ゲイリー・シニーズ 115分
紹介者
栗原好郎
作品の解説
欲しいものにすぐ触りたがるという習性はふつう幼児に特有なものだが、そうした習性を持ち続けている大男レニー。 彼の相棒は小柄だが頭の切れるジョージだ。 映画の冒頭、列車の轟音が響き、はめ板の間から光が差し込み、貨車の中に座っている男、ジョージを映し出す。 この光はその直後、赤いドレスの女が走る、見渡す限り一面の小麦畑の黄金色と重なり、希望と幾分かの宗教的感情を見る者に与える。
1930年代のカリフォルニアを舞台に展開する夢とその瓦解のドラマ。 その2時間近くの映像で一番印象深いのはこの黄金色だ。 そうだ、カリフォルニアの別名は「ゴールデン・ステート」だった。 小麦畑の黄金色といえばあの『星の王子さま』の金髪を思い浮かべもするのだが、 それは豊饒を表すと共に死と崩壊をも表すわけで、まさにこのレニーとジョージの場合にぴったりだ。 自分たちだけのささやかな土地と家を持つという彼らの夢は、 二人が働いている農場主の息子カーリーの妻の登場で破局に向かう。
子供の知能しか与えられていないレニーは『白痴』の主人公ムイシュキンにも似て、どこか神々しい光を放っている。 だから王様に道化が必要なようにジョージにもレニーが不可欠なのだろう。 そうした結束が夢を神聖化し、実現させるのだから。 しかし、白痴は時として狂気をも生む。 柔らかいカーリーの妻の髪を指で撫でながら至福へと導かれるレニーは、誤って彼女を殺してしまう。 この場面の異様な長さは、ジョージ自ら銃でレニーを撃ち殺す、唐突なまでに短い幕切れを一層、効果的、悲劇的なものにしている。 原作はスタインベック
「二十日鼠と人間の、最善を尽くした計画も/後からしだいに狂って行き、望んだ喜びのかわりに/嘆きと苦しみの外、われらに何者も残さぬ」