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第69回紹介作品

タイトル

『Love Letter』〜甦る記憶〜
1995年、 監督 岩井俊二  113分

紹介者

栗原好郎

作品の解説

昔、『ふたりのベロニカ』(キェシロフスキ監督作品)という、瓜二つの女性が遠く離れて暮らしながらも奇妙に引かれ合うという傑作があった。 今回の映画も、時を隔ててひとりの男に愛されたふたりの女(中山美穂の二役)の不思議な関係を実に巧みに描いている。

死んだフィアンセの樹への思いを断ち切れずにいる神戸に住む博子は、まだ彼の死を実感できずにいる。 そうした折、樹の中学卒業のアルバムから彼がその昔住んでいた小樽の住所を見つけだし、手紙を出してしまう。 それは、恋人の死を確認し、新たな旅立ちをするためなのか。 あるいは自分の知らない恋人の過去を知るためなのか。 ところがやがて、来るはずのない返事を受け取った博子は、樹への思いを一層募らせる。 死んだはずの樹から手紙が。

実は樹の中学時代の同級生に、彼と同姓同名の女の子がいたのだ。 謎が深まる・・・小樽を訪れる博子は意外な事実を知る。 このふたりの女の子は驚くほど似ているにもかかわらず、お互いに似ているとは少しも言わないし、相手を自分の分身と考えることもしない。 スクリーンを見る観客だけが、ふたりの女の子が瓜二つであることを認め、それに基づいて、ひとつの物語を作り上げる。

過去と現在を結ぶ一本の線。 生前、博子に一目惚れしたと言っていた樹だが、初恋の相手に愛を語ることのなかった彼の内気さは、 その相手によく似た別の女性へと向かわせる。 しかし、作品の中でその事がはっきりと言及されているわけではない。 ドラマは画面と画面がスナップ写真を見るようにつながっていくだけで、そこに、もっともらしい理由や因果関係の説明はほとんどない。 それでいて伏線の張り方も巧みで、観客は意外な展開が楽しめるというわけだ。 好きだということばが実体を失ったように見える時、好きだとはっきり言わないことの重み、 過去へとさかのぼる時間の流れがそれに加わって、時空を超えたドラマが現出する。

   

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