第75回紹介作品
タイトル
『僕らはみんな生きている』
1993年、 監督 滝田洋二郎 115分
紹介者
栗原好郎
作品の解説
最近、海外へ出張、転勤したサラリーマンが、現地で事件に巻き込まれたという話をよく聞く。 この話でも真田弘之演じる日本の一流会社の社員が、タルキスタン(そんな国あったかな? どこか中央アジア的雰囲気を持っているが、実はただタイとパキスタンをミックスしただけか?)に出張を命じられる。
現地では橋の建設をめぐって、日本の二つの会社が入札を争っている。 真田と山崎努演じる三星建設側と、岸部一徳と嶋田久作演じるIBC 側が、軍の開発担当へさかんに働きかけているのだが、突然、市街戦が始まってしまう。 危険を避け、現地脱出のため、呉越同舟、四人は空港へ向かう。
市街戦の中をスーツ姿に鞄を持った日本のサラリーマンが、名刺やパスポートを両軍の兵士に見せながら、弾丸の飛びかう中を歩く様は、滑稽そのもの。 それにジャングルの中を空港目指して彷徨している時にも、ちゃんと記念撮影を忘れない。 それも裸同然の体に業務用の鞄をしっかり持って。
切迫した状況で命さえ危ないのに何やってんだ。 おかしさを通り越して涙さえこぼれる。 でも、こうした場面を見て、日本のサラリーマンは、案外、苦笑しながら、顔が引きつってしまうのかも。
『僕らはみんな生きている』というタイトルからして、あの『手のひらを太陽に』の歌詞のパロディだし、四人が逃げる途中の洞穴の中で聞くさだまさしの『関白宣言』も言いようのないアイロニーを感じさせる。
文字通り、橋の建設をめぐり、四人は本当に危い橋を渡ってしまうのだが、会社人間度の高い山崎や岸部ら支店長クラスと新人類に近い真田や嶋田らとの間の溝は埋めようもない。 それがこの作品に笑いをもたらす。 笑いながらも顔が引きつるこの映画の監督は滝田洋二郎。 『病院へ行こう』シリーズに劣らぬ風刺の効いた作品。 ジャングルでニシキヘビと格闘する真田の迫真の演技と、それを助けもしない他の三人との好対照が実に見事。 日本の喜劇ここにあり。