第78回紹介作品
タイトル
『リトル・ブッダ』
1993年、 監督 ベルナルド・ベルトルッチ 141分
紹介者
栗原好郎
作品の解説
『ラストタンゴ・イン・パリ』や『1900年』の頃のベルトルッチは、ユートピアを夢想し、またそれが可能であると信じていた。 しかし80 年代の初め、母国イタリアにおける高度経済成長に強い腐敗のにおいを感じ、そこにシニカルな態度を見てしまった彼は、まず中国へと向かう。 画一化という消費文化の打撃から逃れるように、ヨーロッパから東方へと新しい可能性のファンタジーを求めて旅立った。 消費文化以前の社会を求めて、彼は中国で『ラストエンペラー』を、サハラで『シェルタリング・スカイ』を、そして今回、ネパールとブータンで『リトル・ブッダ』を撮った。
『リトル・ブッダ』では輪廻転生、つまり「生まれ変わり」を軸に、仏教を発見した自分の感動をあらゆる世代の子供たちに伝えたいと、あるインタビューで監督は答えている。 そのためか、作品はおとぎ話のようなスタイルで、子供にもわかりやすいように作られている。 ベルトルッチとしては、初めてSFXを用い、前作の『シェルタリング・スカイ』の重苦しい雰囲気とは打って変わって、明るい色調になっている。
この世の中の人々を救う運命を背負って生まれてきたシッダールタ王子の不思議な物語と、ジェシーというアメリカに住む少年との時を超えた出会い。 ジェシーは、他の二人の子供たち(ラジュとギータ)とともに、ブッダの魂を受け継ぐ尊師ラマ・ドルジェの生まれ変わりといわれ、肉体はラジェに、言葉はギータに、そして魂はジェシーに転生する。
過去と現在との幸福な邂逅を象徴するかのように、映像は比類のない壮麗さに満ち、交錯する光は神々しいまでの輝きを見せている。 『ラストエンペラー』以来、ベルトルッチ作品の音楽を担当している坂本龍一の音楽は、近年にない冴えを見せ、時空を超えたファンタジーを可能にしている。