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第80回紹介作品

タイトル

『クロウ/飛翔伝説』
1994年、 監督 アレックス・プロヤス  102分

紹介者

栗原好郎

作品の解説

死者の魂を黄泉の国へと導くカラス(この映画のタイトル『クロウ』は英語でカラスのこと)は、悲しみのあまり、死者の魂が鎮まらない時、死者を甦らせ、悪を正す。 非業の死を遂げた若いふたりの魂は、まだ冥界へ行けずに、この世とあの世の間をさまよっている。

カラスによって甦ったエリックは、自分と恋人シェリーを理不尽にも死に至らしめた者たちへの容赦のない復讐を開始する。 一度死んだ人間は、カラスの超能力で二度と死ぬことはない。 銃撃戦でいくら蜂の巣のように銃弾を浴びても、たちどころに再生し、復讐を続けていく。

この若いカップルがハロウィーン(10月31日)前夜に葬られたせいか、甦ったエリックは、やさしい悪魔のようなメイクで登場する。 それはイギリスの女流作家メアリー・シェリーが創り出したフランケンシュタインの怪物とどこか似ていて、不滅で強力である半面、ナイーブで詩的ですらある。 そういえば、エリックの婚約者の名もシェリー・ウェブスターと言ったし、原作者の脳裏をこの怪奇な人造人間の話がよぎったことは想像するに難くないだろう。

自分たちを殺した男たちへの復讐を次々に果たしていくエリックだが、彼には、最愛のシェリーと永遠に結ばれる喜びよりも、やり場のない悲壮感や孤独感が漂っている。 ラストで自分に霊力を与えていたカラスを撃たれ、一時的に普通の人間に戻るシーンで見せる彼のシャイな表情は、スクリーンで繰り返される惨劇をファンタジーへと昇華させる。

このエリックを演じるのはブランドン・リー。 カンフーの映画の神話的シンボルであるブルース・リーの息子だが、この映画の完成を待たずにやはり非業の最期を遂げている。 エンディングの字幕で、この作品がブランドンとその婚約者エリザに捧げられているのを目にする時、観客は今見たエリックとシェリーの悲しい物語との恐ろしいまでの類似性に気づかされ、戦慄してしまう。

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