第81回紹介作品
タイトル
『鬼が来た!』
2000年、 監督 姜文(ジャン・ウェン) 139分
紹介者
栗原好郎
作品の解説
この映画は、カンヌ国際映画祭で見事グランプリを獲得した作品だが、第二次大戦終了直前の河北省の農村を舞台に、日本占領下に生きた中国農民と日本兵とのかかわりを描いて出色の出来だった。
この作品は、中国政府からは「非愛国的であり、歴史を重大に歪めている」として、上映禁止処分を受けているらしいが、野蛮で残虐な、まさに鬼のような日本人と、純真無垢な中国人という従来の紋切り型の構図をはるかに超えた、人間の生きることへの飽くなき欲望を描いた秀作だった。
もちろん、日本人の非道は容赦なく断罪されるべきだろうが、中国の民が生きるために時折見せる卑屈さと狡猾さをも合わせて描くことで、映像にリアリティーを持たせていた。
折から、日本の真珠湾攻撃を描いたアメリカ映画『パール・ハーバー』が公開中だが、歴史認識の誤りもさることながら、日本の描き方自体、実にアメリカ寄りの視点で描かれている。 奇襲をしたのは日本で、アメリカは被害者だという視点からだけでは真の歴史認識は出てこない。 白と黒というコントラストは一見わかりやすいが、善悪には曖昧な部分があることを忘れてはならない。 その意味でも、中国の負の部分を抉り出した『鬼が来た!』という映画の持つ意味は大きい。