第83回紹介作品
タイトル
『破線のマリス』
2000年、 監督 井坂聡 108分
紹介者
栗原好郎
作品の解説
映像は事実を映すものである。 メディアが伝える「情報」は真実である。 『破線のマリス』(井坂聡監督)は、そんなわれわれの「常識」を揺るがす作品だ。
ニュース番組の映像編集者(黒木瞳)に一本のビデオテープがもたらされる。 それは高級官僚(陣内孝則)の汚職を裏付ける映像だった。 官僚がもらした陰惨な笑み。 それこそが真実のあかしだと確信した彼女はテープを番組にかける。 しかし、実は、このテープはやらせであり、何者かが仕掛けた映像の罠だった。 不自然な笑みは、実際は官僚が子どもを見たときの自然な微笑であり、それが切り取られ、事件関係者の映像のなかに置かれることで、「陰惨」という印象をつくりだしたのだった。
確からしい映像でさえ、編集側の作為によっていかなる物語の展開も可能になる。 さらに効果音やバック音楽が加わると、破線が実線へ、可能性が事実そのものへと変貌する。 これこそが破線の悪意なのだろう。
われわれは、テレビの垂れ流しの「情報」をあまりにも無批判に受け止めてきたのではないだろうか。 さらに言えば、報道被害という名の下にメディアへの批判ばかりが先行して、好奇心丸出しの視聴者自身への反省はほとんど見られないことこそが問題だろう。 そのことにわれわれが気付かない限り、破線のマリスはこれからも蔓延し続けるだろう。