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第84回紹介作品

タイトル

『スペシャリストー自覚なき殺戮者ー』
1999年、 監督 エイアル・シヴァン  128分

紹介者

栗原好郎

作品の解説

スペシャリストとは、ユダヤ人虐殺の責任を問われ、本人否認のまま絞首刑になった元ナチス将校アドルフ・アイヒマンのことだ。 そのイスラエルでの長大な裁判記録を二時間余りに再構成したのが今回の作品。

有能な官吏であり、上司の命令には素直に従う忠実な部下であるアイヒマン。 その風貌は冷酷無比などころか、物静かな家庭人のものであり、その愚直なまでの弁明ぶりは滑稽でもあり、見る者の同情すら誘う。 しかし、全く凡庸な、ごく普通の人間が、ある日、凶悪な殺戮者に変貌してしまう。

組織というものは、アイヒマンのように飽くなき情熱と忠誠心で自分に与えられた仕事に専念する存在を生み出す。 彼らは組織の歯車として行動することで、個人の責任の問題を回避しようとする。 そこには無責任の体系と言われるどこかの国の社会問題とも相通じるものがある。 会社のため一生懸命に仕事をしたのに、公害を垂れ流したり、薬害を引き起こしたりする事例は後を絶たない。

コンピューター化された機構の中では、現場から離れた所で、ほとんど事務的に決定がなされる。 さらに分業化はわれわれに全体的な仕事の意味を見失わせる。 そのことに気付かなければ、これからも無数の「アイヒマン」が生み出されていくだろう。

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