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第87回紹介作品

タイトル

「山中貞雄の映画」

紹介者

栗原好郎

作品の解説

『人情紙風船』を遺作として、中国戦線で戦病死した山中の『丹下左膳餘話・百萬両の壺』(1935年)は卓越した落語的時代劇である。 それまでの『丹下左膳』のニヒルさは影をひそめ、ユーモアをちりばめたホームドラマへと変貌している。 それには原作者の林不忘はいささか不満だったようだが、 山中が大河内伝次郎のコミカルな部分を引き出した功績は高く評価すべきだろう。 伊藤大輔が日活を退社。 急遽、山中に白羽の矢が立ったわけだが、後年の小津作品にも影響を与えたのではないかと思うほどユーモアにあふれ、絶妙の間合いで省略を繰り返す山中の映画作法は、当初より小津が嘱望する所だった。 大河内伝次郎は福岡県豊前市出身だが、極度の近視のため、相手に肉薄して刀を振るうので、迫力ある乱闘が生まれた。 ために相手役は、打撲傷が絶えず、大河内の殺陣には膏薬代がかかると言われた。

20代で戦病死しなければならなかった山中はさぞかし無念だったろうが、それでも一抹のユーモアをたたえた言葉を残している。 「紙風船が遺作とはチト、サビシイ、友人、知人には、いい映画をこさえてください。」

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