第94回紹介作品
タイトル
『カリガリ博士』
1919年、 監督 ロベルト・ヴィーネ 71分
紹介者
栗原好郎
作品の解説
ドイツ映画は1920年代に黄金時代を迎える。 第一次大戦の敗北によりワイマール共和国が成立し、その結果、 大衆社会が出現し、大衆社会の芸術である映画においても先端的な試みがなされた。 ドイツ表現主義と呼ばれる世界でもぬきんでた芸術潮流が生まれた。 この『カリガリ博士』もその先駆けであり、ありとあらゆる空間が不気味に歪み、その現実とは異なる人工的な空間の意匠が表現主義を象徴している。
カリガリ博士と名乗る香具師が夢遊病者を使って連続殺人を行っているという事実を学生が突き止める。 しかし実は、 その学生こそが狂気に陥っていて、結局、カリガリが院長を務める精神病院に収容される。 つまり、観客がこの映画の中で観る物語は全て狂人の妄想で、 だからこそ、空間があんなに歪んでいたのだ。 ヒッチコックの『私は告白する』(1953年)という作品でも、主人公の不安を象徴するかのような建物の歪みが出てくる。 ドイツ表現主義の影響と考えていいだろう。