第97回紹介作品
タイトル
『シェルブールの雨傘』
1964年、 監督 ジャック・ドゥミ 91分
紹介者
栗原好郎
作品の解説
自動車修理工ギイと傘屋の娘ジュヌヴィエーヴの悲恋物語。 アルジェリア戦争を背景に2年の兵役へ行く恋人とのシェルブール駅での別れまでが第1部(出発)。 さらに第2部(不在)は、戦線で負傷した恋人からの便りが途絶える中の、ジュヌヴィエーヴの、別の男との結婚まで。 そして、傷心のギイの帰還と彼の幼馴染のマドレーヌとの結婚、 ジュヌヴィエーヴとの思わぬ再会と別れまでが第3部(帰還)。 メロドラマの要素を含んでいる上に、ミシェル・ルグランの音楽がこれでもか、これでもかと観客を感傷的にする。 フランス映画は感傷とは対極にあると思っていたが。 ただラストシーンが素晴らしい。 叔母さんの遺産が転がり込んだギイが念願のガソリンスタンドを持つ。 幼馴染のマドレーヌとの間にフランソワという男の子が生まれる。 スタンドの経営が軌道に乗り始めた矢先、思わぬ客がやってくる。 ジュヌヴィエーヴ。 運命のいたずらと言えばいいのか、数あるスタンドの中で、よりによって愛し合った男の経営するスタンドに来るとは。 ギイとの間に出来た娘フランソワーズまで連れて。 フランソワとフランソワーズという、若干語尾が異なるが、日本ならさしずめ、薫、樹などのように、 男にも女にもある名前を持つギイの子供を観る時、それぞれの生活を侵すことなく別れてしまう二人の中に、いまだ消えやらぬ恋情が密かに燃えている事を観客は知る。 別れのセリフがいい。 「あんた幸せ?」「うん、とっても」。 不幸にも別れなければならなかった恋人の安否と幸せを確認して、女はベンツに乗って去っていく。 思い出の中に生きるしかない二人の姿がせつない。