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第98回紹介作品

タイトル

『太陽がいっぱい』
1960年、 監督 ルネ・クレマン 118分

紹介者

栗原好郎

作品の解説

1960年と言えば、時あたかもフランスはヌーヴェル・ヴァーグの時代が訪れようとしていた。 その喧噪のなかで放った旧勢力の一人であるルネ・クレマンの快作。 もちろん、無名のアラン・ドロンを一気にスターダムに押し上げた記念すべき作品でもある。 原作は『見知らぬ乗客』と同じパトリシア・ハイスミスである。 となると、ホモセクシャルな感じが当然するわけだが、地中海のきらめく太陽の下、紺碧の海で展開されるサスペンスは、出自の卑しいドロンが成り上がっていくための舞台としてはまぶし過ぎた。

アメリカの貧乏な青年トムが、金持ちの友人フィリップを連れ帰ることを頼まれ、ナポリを訪れる。 フィリップの婚約者マルジュとヨット遊びをするうち、トムはねたみと憎しみからフィリップを殺してしまう。 この後が怖い。 トムはフィリップに成りすまし、髪型から服装、声色まで、完全に偽装するわけだが、フィリップのサインまで完璧に真似るところは戦慄さえ覚える。 成り上がりの階段を駆け上がるトムは、疑惑を持ったフィリップの友人も殺し、マルジュまでものにするが、完全犯罪が達成されようとしたその瞬間、破局が。 どんでん返しが実に鮮やかで、意外性に富んでいる。 美男の代名詞と言われたドロンだが、品性の卑しさを兼ね持っていたがゆえに、こうした成り上がりの屈折した感情を表現できたとも言える。 ドロンは以後、作品にも恵まれ、出世街道をひた走ることになる。 同じ美男でもロバート・レッドフォードが、作品に恵まれなかったのと対照的だ。 犯行前のトムがおどおどして消極的なのに対して、フィリップを殺した後は、冷静沈着で行動的な人物へと変貌するところは必見。

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