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第100回紹介作品

タイトル

『モダン・タイムス』
1936年、 監督 チャールズ・チャップリン 87分

紹介者

栗原好郎

作品の解説

チャップリンはトーキーの流れに逆らって、サイレント映画を撮り続けた監督である。 しかし、この作品を境にトーキーへと転換する。 『モダン・タイムス』の中で唯一、チャップリンが「ティティナ」を歌って拍手喝采を浴びる場面がある。 これがおそらく観客が彼の肉声を画面から聞いた最初であろう。 それまではあのパントマイムだけで、台詞を聞くことは誰にも不可能であった。 しかし、聞こえてきた彼の歌声はフランス語でもあり、英語でもあり、あるいはスペイン語でもあり、その他何語でもありうる、ということは何語でもない代物だった。 つまり、意味を持ったものとして言語を使っていない。 確かにメロディーに乗った歌は聞こえるが、意味は皆目わからない。 それは、「音によるパントマイム」とでも形容したくなる歌で、トーキーへの移行というよりむしろ、パントマイムにこだわる彼自身の姿を彷彿させるものがある。 またこの作品は、ナチの宣伝大臣ゲッベルスによって盗作の嫌疑をかけられたことがある。

1932年に作られたルネ・クレールの『自由を我等に』と似ているというのである。 チャップリンは『モダン・タイムス』を作る時に、『自由を我等に』を観ていたかもしれないが、 彼を尊敬してやまないクレール自身が盗作の疑いを否定したことで一件落着。 この作品は現代文明批判の色彩が濃いが、ラストシーンで山並みに向かって歩き続けるチャーリーと少女の姿が、複雑な意味を投げかけて終わる作品でもある。 影の移動を使って時間の省略を巧みにやっているのだが、夜明けから夕方へと一転して時間が移りゆくことで、彼らの行く手が果てしなく遠いものであり、山の向こうにある希望の地に辿り着くことができるだろうかとチャップリンは問いかけている。 ラスト数分に見せるチャップリンの天才と完全主義。

ベルトコンベアを流れるパーツのボルトを締める単調な作業を、朝から夕方まで続ける工員チャーリーは、自動ランチ給食機の実験台にされたりしているうちに、頭がおかしくなり、歯車が複雑にかみ合って回転する巨大な機械の中に巻き込まれてしまう。 彼は精神病院に入れられ、やがて退院するが、路上にあった赤旗を拾いデモ隊の先頭を歩いたら、リーダーとして拘置所入り。 そこで囚人の脱獄を偶然防いでここもまた無罪放免に。 さらに今度は造船所に勤めて大失策。 暖かく食料のある拘置所が懐かしいチャーリーは、パンを盗んだ浮浪少女を見て、無銭飲食でわざと捕まるが、少女と護送車からうまく逃げ出す。 二人のつましい生活が始まる。 しかし、生活は相変わらず厳しく家もない。 チャーリーはデパートのガードマンに雇われたが、泥棒扱いされてまた留置場へ逆戻り。 釈放後、二人は堀割沿いにポツンと建った掘立小屋で暮らすことになる。 やがて工場が再開されるというのでチャーリーが駆けつけてはみるが、やはり長続きはしない。 やがて、レストランの踊り子になった少女の紹介でウェイター兼歌手になり、「ティティナ」を歌って拍手喝采を浴びる。 そこへ彼女を浮浪罪で捕まえ鑑別所に入れようとする刑事が現れるが、うまく逃げ出した二人は、朝日を背に受けて山に向かって歩き出す。 やがて歩き続ける二人の影が後ろに移動し、あたりは残光に包まれている。二人は手をつないでいるが、道路中央の白線によって隔てられている。 テーマ曲『Smile』が鳴り響く中で幕。

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