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第130回紹介作品

タイトル

山田洋次の喜劇

紹介者

栗原好郎

作品の解説

最近でこそ時代劇なども撮っているが、今まで山田は『男はつらいよ』シリーズのイメージが強かった。 渥美清主演の松竹のドル箱映画として、毎回ほぼ同じキャストで、同じような展開を持つこのシリーズの魅力について再考してみる。

偉大なるマンネリズムの極致としての『男はつらいよ』であるが、渥美がこのシリーズで主演男優賞を取ることは一度もなかった。 あれだけの名演にもかかわらずである。 インテリ的な観念論からではなく、観客を楽しませることを第一として映画作りをしてきた山田の大衆性が逆に正当な評価を生まなかったのだろうか。

歌舞伎などの伝統芸能もそのマンネリズムの共有こそが魅力の源泉なのだが、こと『寅さん』映画については、安易なヒューマニズム礼賛の対象としてしか考えられてこなかった歴史がある。 暴力的な場面があっても、それが主調音として語られることはない。ギャグ満載の場面が、次のシーンでは涙ぐむ展開になる。 ギャグとして突き放すことで、むしろその本質を伝える。 悲しい事を笑いながら語るという山田の姿勢が真の共感を呼ぶ。 喜劇の本質を知悉した山田の到達した真骨頂と言えよう。 喜劇王チャップリンは言っている。 「喜劇は距離を置いて人生を見ることであり、悲劇はクローズアップされた人生である」

    

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