第82回紹介作品
タイトル
『陰陽師』
2001年、 監督 滝田洋二郎 116分
紹介者
栗原好郎
作品の解説
テロという犯罪を裁判ではなく、戦争という形で「解決」しようとするアメリカに危機感を募らせている人も多いのではないだろうか。 混迷した世情は人々に癒しがたい心の闇をもたらす。 昼夜を問わず闇のない世界を実現した現代にあって、こうした心の闇を拭い去ってくれるスーパーヒーローの登場が待たれるところか。
さて、今と違って昼と夜とが截然と分かれていた平安の世を舞台に、森羅万象に通じ、陰陽道を完璧なまでに使いこなして人々を癒した男、安倍晴明を描いたのがこの映画である。 タイトルは『陰陽師』。 監督は『秘密』などで話題を賑わした滝田洋二郎。 晴明役に狂言師野村萬斎を迎えて、闇を支配したミステリアスな大陰陽師を現代にも通じるヒーロー像として描いている。 敵役の道尊という陰陽頭を真田広之が好演。
真の闇が広がる夜の世界に、人々の邪悪な心から産まれた悪鬼やものの怪が跋扈する時代にあって、その闇から人々を救う清明の姿は、現代にも待望されるヒーロー像なのである。 郷土出身の中西和久が演じる『しのだづま考』という説教節でも、人間と狐の間の子であり、超能力を持った存在として描かれている 。
先の見えない現代に生きる私たちにとって晴明の英姿は羨望の的だろうが、ひとりの英雄に頼ってばかりいては、「現代の闇」から抜け出すことは到底できまい。 むしろ、私たち一人ひとりが自覚的に闇を見極めることから始めなければならない。