第149回紹介作品
タイトル
「映画の未来に向けて」
紹介者
栗原好郎
作品の解説
もう何度もこの連載で繰り返して書いてきたことではあるが、映画においても写真に近いリアルさ(realness)ではなく、 ある抽象性をもたらすリアリティー(reality)をこそ問題とすべきだろう。 リアルさが程度や状態に重点があるのに対し、 リアリティーの方はむしろ、対象の本質に直接迫った抽象性を帯びたものを指す。 また今、リアルさという表現は、日本語としてかなり一般的になっていると思うが、 リアルであるという事がそのままリアリティーにつながるかのような短絡的な思考が蔓延する危険性が現代には潜んでいる。 ある意味では、映画は全てフィクションであるが、CGとか3Dとかの技術の進歩によって、映像が飛躍的に鮮明に、かつ実物に限りなく近づくことで、 その本質までも表現し得ているという錯覚を生んでいるのも事実だ。 しかし、その本質こそがrealityであり、 それは実物に限りなく近いというrealnessとは似て非なるものなのである。 後者を対象の本質と混同している人が意外にも多い現実には閉口するが、 軽々に、単なる価値観の違いとして片付けるわけにはいかないだろう。 映画が見えない理念を表現するメディアであり、言いたい事を隠す事で観客の想像力を刺激してきた歴史を、 今こそ再認識すべき時期に来ている。 そうした過去との対話を続ける事が、斜陽産業と言われて久しい映画が生き残る唯一の手立てなのではないだろうか。