【戸畑本館】学部一年生へのおすすめ本

学部一年生の皆さんにおすすめしたい本を、先生方に選んでいただきました。
読みたい本があったら、マイライブラリから予約もできます。
予約方法は★詳しい予約方法(reservation.pdf)をご確認ください。

書影

新感覚物理入門 : 力学・電磁気学の新しい考え方

著編者:今井功
出版社/提供元: 岩波書店
出版年:2003.6
資料ID:00105304

大学院工学研究院機械知能工学研究系 永岡健司先生 推薦

COMMENT
古典物理学の力学や電磁気学における「力」という曖昧な概念に対して,質量や運動量などの保存則を基礎とした,新しい見方をもたらしてくれる一冊です.目には見えない物理法則を数学的に理解するのではなく,日常感覚的に理解できるようにしてくれます。

書影

英語のお手本 : そのままマネしたい「敬語」集

著編者:マヤ・バーダマン
出版社/提供元:朝日新聞出版
出版年:2015.7
資料ID:001097810

大学院工学研究院物質工学研究系 毛利恵美子先生 推薦

COMMENT
片言でもコミュニケーション自体は可能ですが、場にふさわしい表現を身に着けることで、人間関係を円滑にし、信頼を得ることができると思います。「言いにくい反対意見を言う」、「失礼にならないように催促する」など、特に仕事をする上で必須の項目ばかりです。

書影

ゼロからトースターを作ってみた結果

著編者:トーマス・トウェイツ (村井理子訳)
出版社/提供元:新潮社
出版年:2015.10
資料ID:001110025

大学院工学研究院物質工学研究系 毛利恵美子先生 推薦

COMMENT
世の中は安価な電化製品であふれ、現在では便利な生活が特別なものではなくなっていますが、自分だけで全てを作り上げるとしたらどんなことがおこるでしょう。「数千円で売られているトースターを、原料から作ってみよう」という”壮大な”プロジェクトの記録です。

書影

世界史を変えた新素材 (新潮選書)

著編者:佐藤健太郎
出版社/提供元:新潮社
出版年:2018.10
資料ID:001108974

大学院工学研究院物質工学研究系 毛利恵美子先生 推薦

COMMENT
身の回りの素材を、その歴史とともに紹介しています。どの項目から読み始めても大丈夫です。

書影

日本語の作文技術 新版

著編者:本多勝一
出版社/提供元:朝日新聞出版
出版年:2015.12
資料ID:001109975

大学院工学研究院物質工学研究系 齋藤泰洋先生 推薦

COMMENT
人に伝える文章を書く力は,実験レポートを書くだけでなく,人とのコミュニケーションを図るうえで必要な技術です.
もともとの本は1982年に出版された古い本ですが,文章を書くうえで必要なテクニックが網羅されており,「人に伝える文章とは何か」を考える良い本です.
理系・文系問わず,この先は文章で戦う世界です.
技術を身につけていきましょう

書影

原発プロパガンダ (岩波新書:新赤版 1601)

著編者:本間龍
出版社/提供元:岩波書店
出版年:2016.4
資料ID:001099695

教養教育院人文社会系 本田逸夫 先生 推薦

COMMENT
3・11事故の後も、本学では世間よりも原発を必要だとする意見の割合がおそらく高い。技術は善だという技術信仰のためだろうが、それゆえに原発を肯定する宣伝=刷(す)り込みをモロに受け入れてきた場合が多いのだろう。
その宣伝(プロパガンダ)の主な内容は事故以前には原発事故はありえないとの「安全神話」、事故後は放射線は無害だとの「安心神話」で、その実行者は国(経産省(通産省)・文部(科学)省など)と電通をはじめとする広告会社、電力会社、財界、御用学者、政治家などの「原発ムラ」である。その額は東京電力一社だけでも年間200億円以上という途方もないもの、しかもその源は国民の支払う電力料金である。そのすさまじい宣伝は、広告でメディアを支配(買収する一方で、批判に対しては恫喝(どうかつ)・排除)し、国民を洗脳してきた。
本書はその宣伝の仕組、その手法の歴史的な変化や洗練を実証的に示しており、論旨も明快で説得的である。仕組としては、巨大広告会社が独占的に支配する日本独自の構造の弊害が大きい。随所に引かれた広告の具体例(ごく一部だけあげると、「交付金、資産税ガッポリ」とした1981年の福島民報、「資源小国日本は小兵(こひょう)力士同様……現実から逃げない覚悟が必要」と舞の海に述べさせた2014年の「新潮」)も興味がつきない。
3・11事故の直後に、原発ムラがHPなどの「安全神話」関連記事を一斉に削除=証拠隠滅(いんめつ)した事実も見逃せない。「金に魂を売って安易に作り続けてきた作品群は、カネの切れ目が縁の切れ目とばかり、あっさりと闇に葬られた」わけだが、そこには、かつて戦争協力新聞が戦後も生き残り、最近では「ヒラメ官僚」が文書偽造・隠滅で権力者に奉仕するという日本の体質を考えさせるものがある。
本書の読者は、「民主主義国」でこんなヒドイことが通用してきたのかと驚くのではないか。ただし、買収の実態を報道して言論機関としての「矜持(きょうじ)(プライド)を示した」地方紙があった事実も、正当に指摘されている。
著者は最近におけるプロパガンダの復活を指摘し、最後にそれに騙(だま)されないための心がまえや具体策も述べてくれている。このように、本書はメディアリテラシーを身につける上でもぜひすすめたい良書である。

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荒れ野の40年 : ヴァイツゼッカー大統領演説全文 : 1985年5月8日 (岩波ブックレット:no.55)

著編者:ヴァイツゼッカー[述]/永井清彦[訳]
出版社/提供元: 岩波書店
出版年:1986.2
資料ID:001056508

教養教育院人文社会系 本田逸夫 先生 推薦

COMMENT
世界的な感動を呼んだ有名な演説。三十年以上前のものだが、特にナチス時代の非人間的行為などの歴史を心に刻みつけ、過去と対決すべきだとする主張は、今日も(たとえば日韓関係にとっても)切実な意義をもつ。著者の理性と良心は近年の内外の政治指導者の野卑な資質とあまりにも対照的だ。過去に何度か、学生諸君と学んだ。訳者の解説及び同じシリーズの宮田光雄『以後』も良い。

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共感障害 : 「話が通じない」の正体

著編者:黒川伊保子
出版社/提供元:新潮社
出版年:2019.4
資料ID:001110267

教養教育院人文社会系 本田逸夫 先生 推薦

COMMENT
著者は奈良女子大物理学科出身の脳科学研究者で企業経営者。著書に『妻のトリセツ』などのベストセラーがある。紹介者は脳科学者の説をあまり評価しないが本書は別で、有益で読みやすい。学生諸君もアイデンティティ、交友、恋愛、職業などに関して、教えられるところが多いだろう。特に“男女・母語・時代、そして脳の特性などによる特徴と個性を排除せず生かし合うべきだ”との著者のメッセージは正当である。
本書のテーマ、「共感障害」とは、あいさつをする、他者を気づかう、年長者を尊重するなどの、どの社会でも常識的な概念が欠落していることに基くもので、その原因はミラーニューロンの過活性(自閉症の一部)、ADHD(注意欠如・多動症。ノルアドレナリン欠如による)、ミラーニューロンの不活性の3つである。特に第3の原因による共感障害は、スマホやSNSの普及で今後増加し排除がいっそう深刻化する恐れがあるという。
人間の「認識フレーム」形成のメカニズムや、異なるフレーム間の葛藤(かっとう)と共存に関する本書の記述も、著者の人生史や企業現場に係わる具体例が多く、興味深い。autism(独自脳)が日本では「自閉症」の名で障害視され社会から排除されがちだという指摘も、貴重である。著者は本書を準備する中で自(みずか)らも自閉症スペクトラム障害で共感障害であることに気づいたという。序論で見通しを示し、図式化なども交(まじ)えてもっと体系的に書いてほしかったという気がするが、そうしないのもまた著者の個性的なスタイルなのだろう。

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前向きに生きるなんてばかばかしい : 脳科学で心のコリをほぐす本

著編者:黒川伊保子
出版社/提供元: マガジンハウス
出版年:2018.4
資料ID:001110281

教養教育院人文社会系 本田逸夫 先生 推薦

COMMENT
先の『共感障害』と関連するが、本書で著者は“共感力とはおもねること、空気を読んで全体に同調することではない”と述べている。こうした発言や本書の表題に現れている通り、著者は通俗常識の逆を行く。つまり、「前向きで、戦略的で、たゆまぬ努力をし、実行力があり、夢があり、人に感謝する」存在であれ、友人がたくさんいて、誰からも好かれ、実年齢より若く、完璧で、人の期待にこたえよ、輝かしいキャリアを手に入れよ――このような自己啓発本の決まり文句をことごとく、くだらないと否定している。要するに、“優等生になりたくて(潜在意識の)自分らしさをないがしろにすると決して幸せになれない”というのである。従って、たとえば「男は空気が読めなくてなんぼ」で、逆に友人が多いスポーツマンタイプのエリート社員は「クッキーの型」のような紋切(もんき)り型の意見しか言えない場合が多いという。学生に“夢を持て”と説く、文科省主導の職業教育も批判されている。
著者の主張には欧米の女性政治家たちの魅力を絶賛しているところなど、疑問もなくはない。しかしユーモラスな叙述も多い本書と笑いながら対話して、優等生をめざす落とし穴から免(まぬか)れる読者が増えてほしい。元来の同調圧力がさらに強まり、(小)役人が音頭を取って大学などが「挙国一致」のように「改革」を進めるという日本の悲喜劇的な現状を反省する上でも、本書は読むに値(あたい)する。

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釜ヶ崎と福音 : 神は貧しく小さくされた者と共に (岩波現代文庫:社会:282)

著編者: 本田哲郎
出版社/提供元:岩波書店
出版年:2015.2
資料ID:001108069

教養教育院人文社会系 本田逸夫 先生 推薦

COMMENT
著者は大阪のドヤ街、釜ヶ崎で野宿労働者の支援活動などを行っているカトリック神父。修道士会のエリート的な地位につきながら「福音」について実感がもてなかった著者は、たまたま訪れた釜ヶ崎で接した労働者の言葉にそれを見出し、解放と救いは(イエスもそうであった)貧しく捨てられた人々の内にあると確信し、既存の聖書の翻訳と一般的な信仰理解の根本的・徹底的な再解釈を進めてきた。通俗的な価値観(宗教的な「敬虔」も含めて)を転倒する信仰の衝撃力を示す作品で、宗教に対して興味のなかった人にもすすめたい。

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北九州学 その10 (北九大基盤教育センターブックレット:No.2-No.12)

著編者:稲津義行 [ほか]
出版社/提供元:北九州市立大学基盤教育センター
出版年:2009.3-
資料ID:001098098

教養教育院人文社会系 本田逸夫 先生 推薦

COMMENT
北九大で行なわれた諸講義の記録。北九州市の生活保護行政の問題を扱った西田新平、「絆(きずな)の制度化」を論じた奥田知志、本学の地元、戸畑の婦人会の反公害闘争にかんする故・林えいだい、の諸氏による講義が秀逸。詳しくは卒業生へのブックリスト2017の6頁以下を参照。

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韓国とはどういう国か (韓洪九 (ハンホング) の韓国現代史:[1])

著編者:韓洪九著/李尚珍 [ほか] 訳
出版社/提供元:平凡社
出版年:2003.12
資料ID:001108079

教養教育院人文社会系 本田逸夫 先生 推薦

COMMENT
韓国の気鋭の歴史家が、現代的・実践的な問題関心の下に日韓関係史を含む韓国史を一般読者向けに論じた書。普遍的な価値に開かれた公正な姿勢、広く深い知識(一例だけ挙げれば、日韓国交正常化の「立役者」、朴正熙(パクチョンヒ)の奇怪な政治遍歴(へんれき)について)、洗練された文章など、たいへん魅力的――日本に蔓延(まんえん)する「嫌韓」の知的頽廃(たいはい)と対照的――で、ベストセラーになったのも当然と感ずる。同書の続編『韓洪九の韓国現代史Ⅱ 負の歴史から何を学ぶのか』なども良い。

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雲は答えなかった : 高級官僚その生と死 (PHP文庫)

著編者:是枝裕和
出版社/提供元: PHP研究所
出版年:2014.3
資料ID:001108067

教養教育院人文社会系 本田逸夫 先生 推薦

COMMENT
カンヌ映画祭で最高賞を受けた是枝監督は、30年近く前の駆(か)け出し時代に『しかし……福祉切り捨ての時代に』というドキュメンタリーを製作した。彼の原点を成す、その作品をもとに著(あらわ)されたのが本書で、環境庁ナンバー2となった山内豊徳(やまうちとよのり)が主人公。彼以後に特に増殖(ぞうしょく)した「俗吏」とは正反対の、感性豊かで良心的な官僚だった山内(福岡市出身)は、しかし、水俣病に関する国の責任問題等との関係で挫折し、自死にいたった。考えさせられるところの多い仕事である。

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日本が売られる

著編者:堤未果
出版社/提供元: 幻冬舎
出版年:2018.10
資料ID:001107500

教養教育院人文社会系 本田逸夫 先生 推薦

COMMENT
昨年、水道民営化(改正水道法の成立)が話題になったが、
本書によれば、水道以外にも農地、種子、福祉、森、海、労働(者)、教育、医療、介護、個人情報等々の日本の(公共的な)資産が巨大グローバル企業、ウォール街、及びそれらと結びついた日本企業に、「商品」として売り払われ(食い物にされ)つつある。「民営化」により効率的な運営ができるとの建前(たてまえ)と「規制(きせい)緩和(かんわ)」のかけ声のもとに、マスコミもほとんど報じない中で。しかも「日本を取り戻す」と叫んできた政治家たちこそが、米国等の要求に応(こた)えてその売国奴(ばいこくど)的な政策を猛烈に進めているという。日本の集団主義を理想化している点などは賛成できないが、「売られ」つつある現状の描写(LineやGoogleを利用することの危険等も含めて)とヨーロッパ等における反撃の動きの紹介からは、学ぶ所が多い。同じ著者の『逃げ切れ!日本の医療』も有益である。(卒業生へのブックリスト2017のpp.15-16を参照)

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天、共に在り : アフガニスタン三十年の闘い

著編者:中村哲
出版社/提供元:NHK出版
出版年:2013.10
資料ID:001109716

教養教育院人文社会系 本田逸夫 先生 推薦

COMMENT
昨年12月に銃撃されて亡くなった著者の自伝的な作品。若松や福岡市で少・青年時代を送り(作家、日野葦平(ひのあしへい)が叔父)思想形成をした著者は、アフガニスタンのらい病医療に加わるようになり、後に治療の対象を拡大しただけでなく医療の枠を越えて、戦乱と異常気象で破壊された大地に緑と農業をよみがえらせるべく現地指導者として井戸と水路の建設に献身するに至った(関係のカラー写真も収録)。福岡県朝倉市などに跡(あと)が残る昔の堰(せき)の技術を再発見して水路建設に生かす過程は、エンジニアの卵には興味深いであろう。
表題の「天、共に在り」の「天」とは人知を越えた存在で、その表題は聖書の「神、共に在り(インマヌエル)」と重ねられ、生態系や人間相互間の共存を破壊する独善的で小賢(こざか)しい「文明」に対する批判が込められている。複雑怪奇なほど多元的なアフガニスタンの社会と気風・人情の描写も興味深く、日本社会の非(・没)人間性や米欧発の一面的な世界像に反省を迫っている。著者はアフガニスタン支援の先駆者、中田正一(なかたしょういち)とともに、「助けることは助けられること」と述べており(『アフガニスタンの診療所から』ちくま文庫、2005年)、その活動の真骨頂(しんこっちょう)を語った言葉といえよう。真のアフガン支援には自衛隊派遣も含めて軍事力は有害無益だと著者が断言してきたことも、重要である。

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スロー・イズ・ビューティフル : 遅さとしての文化

著編者:辻信一
出版社/提供元:平凡社
出版年:2001.9
資料ID:001050123

教養教育院人文社会系 本田逸夫 先生 推薦

COMMENT
成長・効率・(グローバル的)競争などの追求という現代の強迫観念的な「常識」に対抗して慎(つつ)ましやかで「スロー」な生き方の意義を説いた作品。食・ホーム・ビジネス・時間・遊び・住まい・身体などのテーマにそくして多様な思想と運動の試みを論じ、詩的な文章で読ませる。著者とその同僚、高橋源一郎氏の対談書、『弱さの思想』(大月書店、2014年)も薦(すす)めたい。

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ジェンダー (図解雑学 : 絵と文章でわかりやすい!)

著編者:加藤秀一, 石田仁, 海老原暁子
出版社/提供元:ナツメ社
出版年:2005.3
資料ID:001101016

教養教育院人文社会系 本田逸夫 先生 推薦

COMMENT
広義の「性」とそれをめぐる諸問題の基本的な学問的知識を提供するだけでなく、読者に対する挑発(ちょうはつ)も含む意欲作。本書を読めば、私たちが根拠のない通念や思い込みにいかに囚(とら)われているかを、そして、(特にノン・エリートの)女性たちや性的少数者たちが置かれた理不尽(りふじん)でひどい境遇を、知ることができるだろう。今年度、学生の希望により学んだ一冊。

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キャラ化する/される子どもたち : 排除型社会における新たな人間像

著編者:土井隆義
出版社/提供元:岩波書店
出版年:2009.6
資料ID:001100430

教養教育院人文社会系 本田逸夫 先生 推薦

COMMENT
現代の子どもたち、若者たちの世界が異様に閉塞(へいそく)的で排除的になっている様(さま)を、「キャラ」という言葉を手がかりに社会学者が考察した試み。学生諸君などによれば、その分析はけっこう説得的なようだ。本書の内容と筆者の評価について、卒業生へのブックリスト2017の22頁以下で詳(くわ)しく述べた。

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貧困クライシス : 国民総「最底辺」社会

著編者:藤田孝典
出版社/提供元:毎日新聞出版
出版年:2017.3
資料ID:001104865

教養教育院人文社会系 本田逸夫 先生 推薦

COMMENT
日本の全世代を巻き込む「貧困の渦(うず)」の実態を、NPOの経験から現場をよく知る若い著者が、若者の貧困に一つの重点を置いてわかりやすく述べた作品。本書から始めて、卒業生へのブックリスト2017などで紹介した湯浅・岩田・堤・阿部・今野・ドーア・熊沢・奥田の各氏などの著書で貧困や排除について学んでいくのもよい。

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ブラックボランティア

著編者:本間龍
出版社/提供元:KADOKAWA
出版年:2018.7
資料ID:001110268

教養教育院人文社会系 本田逸夫 先生 推薦

COMMENT
東京オリンピックでは十万人以上の無償ボランティアの活用が計画されている。それについて著者は次のツィートを行なったという。すなわち、「全(すべ)ての学生諸君は東京五輪のボランティアをやめましょう。なぜなら五輪はただの巨大商業イベントで、現在42社ものスポンサーから4000億円以上集めており、無償ボラなんて全く必要ないから。あなたがタダボラすれば、その汗と努力は全てJOCと電通〔=世界最大の広告会社。若手女性社員の過労死が摘発された後も、その背景を成す異常な長時間労働の体質を改めていないとされる〕の儲(もう)けになる。バカらしいよ」。これは本書の中心的なメッセージと言ってもよく、さらに酷暑の危険、ボランティアに無償という意味は無いこと、そして大企業だけでなく新聞主要4紙などマスコミも「協賛」して五輪批判を許さぬ情報統制と動員の体制ができていること、諸大学も不見識にも「ボランティア」参加者への単位付与の計画などで同調していることなどの内容が、わかりやすく書かれている。巻末の対談には、日本では本来の(=自発的・非営利的・公益的)ボランティアの概念が成立しにくく人々が国家や企業の下請(したう)けに動員されがちだとの重要な指摘もある。
著者は電通に次ぐ巨大広告会社である博報堂の営業担当社員だった経歴がある。その知見も生かした本書から、学生諸君は「金まみれ」五輪の実態を知り、「やりがい搾取(さくしゅ)」されないための知恵を得ることができるだろう。さらに著者が言う通り原発の場合と共通する、広告会社と官界・業界・マスコミ・政界の癒着(ゆちゃく)による世論工作の仕組についても学んで、(学校ではほとんど教わらない)リアルな社会の見方に近づけるはずである。

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歌わせたい男たち

著編者:永井愛
出版社/提供元:而立書房
出版年:2008.3
資料ID:001101693

教養教育院人文社会系 本田逸夫 先生 推薦

COMMENT
入学・卒業式における「君が代」演奏・斉唱の強制とそれに係わる教員の処分をテーマとした戯曲。実話を多く盛り込み、ユーモラスなやりとりで笑わせながら問題のグロい本質を浮き彫りにしている。
卒業生へのブックリスト2017の21-22頁で紹介した。

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雪明かり

著編者:藤沢周平
出版社/提供元:講談社
出版年:1979.2
資料ID:1007744

教養教育院人文社会系 本田逸夫 先生 推薦

COMMENT
時代小説で一時代を築いた著者の短編集。端正(たんせい)な文体と巧みな構成から成る珠玉(しゅぎょく)のような物語が収(おさ)められている。勝手な推測だが、「雪明かり」の雪とは雪国の湿った重い雪で、この世(昔も今も)の理不尽(りふじん)さ、生きることの苦しさ、人間の誤りやすさなどを象徴し、その暗さ、厳しさの中でほのかに生ずる光(明かり)のような人間の真情が、本書の諸作品に共通するテーマではなかろうか。こうした読み物に不慣(ふな)れな諸君は、ユーモラスな「遠方から来る」や、「冤罪(えんざい)」、巻末の表題作などから読み始めることをすすめたい。

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縁を結うひと

著編者:深沢潮
出版社/提供元:新潮社
出版年:2016.2
資料ID:001108068

教養教育院人文社会系 本田逸夫 先生 推薦

COMMENT
在日コリアンたちやその日本人妻の苦悩、悲しみ、葛藤、希望、喜びなどを、家族関係を中心にユーモアも交えて描いた連作短篇。フィクションだが(むしろフィクションだからこそ)、抽象的な概念で語られがちな彼らの(私たちと同じ人間としての)等身大の姿を具体的に生き生きと伝えてくれる。本書を読めば、ヘイトスピーチがいかにひどい犯罪かということも、よくわかるだろう。同じ著者の『ひとかどの父へ』(朝日文庫、2015年)などもすすめたい。

書影

誰でもない (韓国文学のオクリモノ)

著編者:ファン・ジョンウン著/斎藤真理子訳
出版社/提供元:晶文社
出版年:2018.1
資料ID:001110343

教養教育院人文社会系 本田逸夫 先生 推薦

COMMENT
現代韓国の女性作家による本書には、愛する人の喪失、孤独、不正規労働、貧困などの境遇にある、名もない人々の内面を鋭く、かつ切々と、そして時にかすかな希望やユーモアも込めて、描いた短篇が収められている。中でも、「ヤンの未来」、「ミョンシル」、「わらわい」が紹介者の心に残った。
「誰でもない」というタイトルは「何でもない」と対比されたもので、人々を「何でもない」消耗品のように扱う社会に対する批判が込められている。その非人間性は、朝鮮戦争と国際通貨危機の傷跡が癒(い)えない韓国だけでなく、やはり利益至上主義、競争信仰と労働の非人間化、そして貧困と分断が深刻化しつつある日本にも共通する。その日本に、著者と似たような仕事をしている作家がいるのだろうかと気になる。
巻末の、日本の読者に向けた、著者の凛(りん)としたあいさつ、そして訳者による解説も良い。

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自由を盗んだ少年 : 北朝鮮悪童日記

著編者:金革著/金善和訳
出版社/提供元:太田出版
出版年:2017.9
資料ID:001110266

教養教育院人文社会系 本田逸夫 先生 推薦

COMMENT
北朝鮮のいわゆるコッチェビ(花つばめ)=ストリートチルドレンだった著者の半生を描いた作品。
かわいらしい呼び方とは正反対に、その現実はあまりにも過酷で餓死・病死などの率が高い。それは、経済的な失政だけではなく、北朝鮮の非人間的なイデオロギー支配の結果である。だが生きのびることさえ難しい境遇にもかかわらず、著者やその仲間の一部など、(時には命がけの)思いやりや助け合いを忘れなかった人々の存在が記されていて、アウシュヴィッツの同様な例と同じく、人間性の証言となっている。著者の奇跡的な韓国亡命とその後の苦闘も感動的。ただし著者の韓国社会の問題に対する評価は、北朝鮮と比べれば「天国」だとの感覚におおわれて甘すぎる。
著者自身による社会科学的なコッチェビ研究の成果が注や解説に生かされているのも本書の特長で、北朝鮮論としても興味深い

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兄の影を追って : 託された「わだつみのこえ」 (岩波ブックレット/No.370.)

著編者:中村克郎/稲葉千寿
出版社/提供元:岩波書店
出版年:1995.4.
資料ID:4000802

教養教育院人文社会系 本田逸夫 先生 推薦

COMMENT
『きけわだつみのこえ――日本戦没学生の手記』(1949年初刊。岩波文庫版など本学図書館に有り)は、戦後日本最大のベスト・セラーかつロング・セラーとされる。書名の趣旨は “海神(わだつみ)のいる海のはるかかなたから聞こえてくる声を聞いてください”ということにある。本書は「わだつみ会」(「日本戦没学生記念会」)を最初から担(にな)い、平和運動に献身(けんしん)してきた著者がその経緯を語ったもの。1時間ほどで読める小冊子だがその内容は深く重い。
著者の兄、徳郎氏の生涯についての叙述が特に感銘を与える。氏は戦争に反対であったが、徴兵後には提供された比較的安全な機会(気象班への転属等)を拒否し、下級兵として虐待される境遇を甘受(かんじゅ)した末に戦死に至った。氏が遺(のこ)した文章からは、その類(たぐ)い稀(まれ)な高い知性と人間性が知られると同時に、氏のような得がたい人物を多数、抹殺(まっさつ)した日本軍国主義の凶暴さ、それが生じさせた損失の甚大(じんだい)さがわかる。
近年、戦後日本の平和主義を非現実的なものとして矮小化(わいしょうか)する風潮が強まっている。しかしその平和主義は、深く真摯(しんし)な経験と思想に発するものだった。本書はそのことの明確な証言になっている。
さらに、映画『日本戦歿学生の手記 きけ、わだつみの声』(関川秀雄監督、東宝、1950年)、日高六郎「『きけわだつみのこえ』再読」(『私の平和論――戦前から戦後へ』岩波新書、1995年、第2章)等を見れば、日本の行なった戦争と学徒兵についての理解が深まるであろう。そして、マルヴェッツィ・ピレッリ編『イタリア抵抗運動の遺書』(冨山房、1983年)も、ファシズムと闘いイタリアの一部解放をも実現した、多くの民衆の思想と行動を伝える感動的な記録としてすすめたい。

書影

沖縄に基地はいらない : 元海兵隊員が本当の戦争を語る (岩波ブックレット:No.444)

著編者:アレン・ネルソン, 國弘正雄[訳]
出版社/提供元:岩波書店
出版年:1997.12
資料ID:1022848

教養教育院人文社会系 本田逸夫 先生 推薦

COMMENT
沖縄の海兵隊のみならず戦争そのものの実態と病理を教える本である。著者、アレン氏はニューヨーク出身のアフリカ系アメリカ人。かつて海兵隊隊員として沖縄に駐留、ヴェトナム戦争に従軍し、除隊後にはクェーカー教徒(絶対平和主義的なプロテスタント教派の信徒)として平和活動を行なった。
本書で特に注目すべき内容が、米軍の中で最も攻撃的で残虐な部隊と自認していた海兵隊についての証言である。すなわち、氏の入隊の経緯が示す貧困ビジネス的な性格、様々の屈辱を与えて教官に対する無条件的服従へと「脳の思考回路」を変える新人訓練、隊員たちの、“沖縄では女も酒も楽しめる。何をしてもおとがめなしだ”という信条(?)と“アジア人は誰(だれ)でも同じ”としてヴェトナムの敵兵と日本人の違いにも無関心だった意識、等である。それらは、殺人装置としての軍隊が陥りがちな問題を表している。また、“第二次世界大戦の退役兵達は好戦的で反省がなく最も手におえない”との指摘からは、欧米諸国を蝕(むしば)んでいる「戦争愛国主義」の深刻な弊害が知られる。
殺戮(さつりく)に明け暮れていたアレン氏が偏見から解放された過程、除隊した隊員たちを激しく苦しめ破滅に追い込みさえする戦争後遺症、立ち直った氏が戦争の温床となる貧困や偏見の克服のために行なった活動の記述等も、意義深い。アメリカ現代史に関する国広氏の補足も有益である。